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老若貧富
ろうにゃくひんぷ
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作家
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作品
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【大菩薩峠 東海道の巻】
「さあさあ、皆さんや、これから上人様がお手ずからお名号をお授け下さる、結縁のお方はこれより一人ずつお通り下さい、お受けになったお方は、あちらからもとのお席へお直りなさるように」
静粛なもので、三尺ほどの入口から順々に上人の前へ出て名号をおしいただいて、一廻りしてもとの席へ戻って来るのに、みんな一応お先へお先へと言って辞儀をしました。
「さあさあ、お持ちなさい、お持ちなさい」
上人の言葉つきからお授けぶりが、いかにも気軽であります。
名号を受ける人は、
老若貧富をおしなべて少ない数ではありませんでした。一生に一度こんな貴い上人のお手ずからの名号をいただく冥加の嬉しさ、これが罪障消滅、後生安楽と随喜の涙にくれているものばかりであります。
「お前は少しお待ち」
いま上人の前に出た五十ぐらいの頑丈な男、その男には上人が容易く名号を渡すことをしませんでした。
「お前は、もと船乗をしていたろうな」
「はい、左様でございます」
頑丈な男は額へ手を当ててお辞儀をしました。集まった人は何事かと思いました。
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Last updated : 2024/06/28