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自暴自棄
じぼうじき
作家
作品

田山花袋

【重右衛門の最後】

自分は崖につて、そして今夜の出来事を考へた。友の言葉やら、村の評判やらから綜合そうがふして見ると、この事件の中心につて居る重右衛門といふ男は確かに自暴自棄に陥つて居るに相違ないと自分は思つた。けれど何うして かれはその自暴自棄の暗い境に陥つたのであらうか。

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織田作之助

【道】

なにもかもその道が無理矢理にひきずって行く。それは佐伯自身の病欝陰惨の凸凹の表情を呈して、頽廃へ自暴自棄へ恐怖へ死へと通じているのだと、もうその頃は佐伯はその気もなく諦めていたらしい。

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太宰治

【右大臣実朝】

けれども私には、そんな批評がましいこと一切が、いとはしく無礼なもののやうに思はれてなりませぬ。あのお方の御環境から推測して、厭世だの自暴自棄だの或いは深い諦観だのとしたり顔して囁いてゐたひともございましたが、私の眼には、あのお方はいつもゆつたりして居られて、のんきさうに見えました。

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福沢諭吉

【旧藩情】

けだし廃藩以来、士民がてきとしてするところを失い、或はこれがためその品行をやぶっ自暴自棄 じぼうじき境界きょうがいにもおちいるべきところへ、いやしくも肉体以上の心を養い、不覊独立ふきどくりつ景影けいえいだにも論ずべき場所として学校のもうけあれば、その状、あたかも暗黒の夜に一点の星を見るがごとく、たといめいを取るに らざるも、やや以て方向の大概を知るべし。

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和辻哲郎

【ある思想家の手紙】

私の悪感は彼をますます悪くしようとも、善くするはずはありません。すでにこれまでにも彼を圧迫する事によって彼の自暴自棄を手伝ったのは、私であったかも知れません。私もまた彼の頽廃について責めを負うべき位置にあるのです

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平山千代子

【転校】

悪いことを憤慨するだけで、却つてその憤慨する自分は、黙つて学校の命ずるまゝをやつてゐる人よりはるかに劣つてゐた。偉さうなことを考へ、又言ひながら、私は云へば云ふだけ、叫べば叫ぶだけ後退してゐたのだ。自暴自棄 ヤケクソだつたから勉強はしない。従つて出来ない。髪は結ぶなんてうるさいこつた。切つてしまふ。制服制帽にしろなどは、今の世に非合理だと、今迄のセーラーにランドセルで押し通す。
 何が偉いといふんだ!

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長塚節

【太十と其犬】

「おれが死んじまったらどうも出来めえ」
と更に彼は自暴自棄にこういうようになった。唯一人でも衷心慰藉するものがあれば彼は救われた。習慣はすべての心を麻痺した。人は彼に揶揄うことを止めなかった。そうして彼の恐怖心を助長し且つ惑乱した。彼は全く孤立した。

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国枝史郎

【開運の鼓】

贅沢ぜいたく出来るのも今のうちだ、それ酒を飲め女を買えと、町人達まで自暴自棄となって悪事 三昧ざんまいに耽けるようになった。切り取り強盗おしこみ、闇討ち放火つけび、至る所に行なわれ巷の辻々には切り仆された武士のかばねが横たわっていたりまた武家屋敷の窓や塀には斬奸状が張られてあったり、二百万人を包容していた幕府所在地の大きな都には平和の影さえも見られなくなった。

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岡本綺堂

【鰻に呪われた男】

それからどうしたか判りませんが、もうこうなっては東京へも帰られず、けっきょく自暴自棄になって、自分の好むがままに生活することに決心したのであろうと思われます。千住のうなぎ屋へ姿をあらわすまで丸二年半の間、どこを流れ渡っていたか知りませんが、自分の食慾を満足させるのに最も便利のいい職業をえらぶことにして、諸方の鰻屋に奉公していたのでしょう。

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吉川英治

【鬼】

それから彼は、同僚を斬った理由わけを語り、藩用と詐称さしょうして借りた金を、実は自分の身に帯びて来たわけでなく、同役は今みんな喰えなくなっている。扶持ふちでは実際に食えない実状なのだから仕方がない。それに起因して、自暴自棄になりかかっている てあいがかなりある。自分もその一人なので、こんな時だと考えたから、大町人の金を借出して、そっと喰えない仲間へ置いて来てやったのだとも云うのである。

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Last updated : 2024/06/28