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自業自得
じごうじとく
作家
作品

正岡子規

【刺客蚊公之墓碑銘 柩に収めて東都の俳人に送る】

蚊帳の穴をくぐるは偸盗ちゅうとう罪なり、耳のほとりにむらがりて、雷声をなすは妄語罪なり、酒の香をしたふて酔ふことを知らざるは、飲酒罪なり、汝五逆の罪を犯してなほ生を人界にぬすむは、そもそも何の心ぞ、あくまで血にふくれて、腹のさくるは 自業自得じごうじとくなり、子をさして母をこまらせ親を苦しめて子をなかせたる罪の、今たちまち報ひ来て我手の先にたおれたり、

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芥川龍之介

【地獄変】

兎に角、あの男の不評判は、どちらの方に伺ひましても、さう云ふ調子ばかりでございます。もし悪く云はないものがあつたと致しますと、それは二三人の絵師仲間か、或は又、あの男の絵を知つてゐるだけで、あの男の人間は知らないものばかりでございませう。
 しかし実際、良秀には、見た所が卑しかつたばかりでなく、もつと人に嫌がられる悪い癖があつたのでございますから、それも全く自業自得とでもなすより外に、致し方はございません。

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坂口安吾

【餅のタタリ】

 平吉の提案で村の有志が会合した。席上、平吉は沈痛な面持で立上り、
「杉の木も高熱を発して寝こんだそうであるが、自業自得とは云いながら、まことに気の毒なことである。彼を罰するには情に於て忍びがたいところであるが、彼がそもそもかかる悲運におちいって高熱を発するに至ったのも、即ちひとえにウスとキネを村内に持ちこんだがために祖先の霊のタタルところとなったがためである。

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長谷川時雨

【三十五氏】

私はうくわつにも、直木氏の周圍が淋しくなつてゐる家庭の事情を忘れて、しかも金澤の家からは自働車で一時間でこられるといふので、病苦がそれほどつのつてゐるとは思はず、自業自得といつてしまつた。その時、みよりの者にでも叱られたやうに、さびしげにやさしく、だまつて うなづいたのを、私は大變痛くこたへた。

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泉鏡花

【貝の穴に河童の居る事】

「ああ、約束は免れぬ。和郎たちは、一族一門、代々それがために皆怪我をするのじゃよ。」
「違うでしゅ、それでした怪我ならば、自業自得怨恨うらみはないでしゅ。……蛙手に、底を泳ぎ寄って、口をぱくりと、」
「その口でか、その口じゃの。」

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菊池寛

【吉良上野の立場】

 上野は笑って、
「何でわしを討つ? 内匠頭に斬られそこなった上に、まだその家来に斬られてたまるか」
「なるほど、内匠頭が切腹を命ぜられたのは自業自得のようなもので、恨めば公儀を恨むべきで、老公を恨むところはないはずですが、ただ内匠頭が切腹のとき、近臣の士に、この怨みを晴らしてくれと遺言があったそうで、家臣の者の中に、その遺志を継ごうというものが数多あるそうで……」

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幸田露伴

【骨董】

そういう人二の字点はなはだ少くないが、時に気の毒な目を見るのもそういう人二の字点で、悪気はなくとも少し慾気よくけが手伝っていると、百貨店で品物を買ったような訳ではない目にも自業自得で出会うのである。

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織田作之助

【アド・バルーン】

何をやらしてみても、力いっぱいつかいすぎて、後になるほど根まけしてしまうといういつもの癖が、こんな話のしかたにも出てしまったわけで、いわば自業自得ですが、しかしこうなればもうどうにもしようがない、駈足で語らしてもらうほかはありますまい。

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大町桂月

【北條より一ノ宮へ】

海に千年の我等、舟が覆へりても命に別條は無けれど、客の身が大事也。死んでもかまはぬから舟を出せといふ客もありたるが、その客は、自業自得、死んでもかまはざるかも知れざるが、名所に傷が付きて、我等の商賣がばつたり。客が何と云はうが、彼と云はうが、如何ばかりの黄金をふりまかうが、舟を出すべからざる時には、出し申さずと、子供扱ひにせられて、覺えず頭を掻く。

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吉川英治

【醤油仏】

 白粉よごれのした女が、伝公の死骸にすがって泣いていた。
 自業自得 じごうじとくとは言いながら、気の毒にもなって、だんだん事情を聞き取ってみると、銅鑼屋の亀さんは吃驚びっくりした。

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Last updated : 2024/06/28