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自己嫌悪
じこけんお |
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作家
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作品
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芥川龍之介 |
【侏儒の言葉】
最も著しい自己嫌悪の徴候はあらゆるものに
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下村湖人 |
【次郎物語 第五部】
こうして、かれは「歎異抄」に親しむにつれ、これこそ人間の知性と情意との |
坂口安吾 |
【蒼茫夢】
当太郎は幼少の頃から母親の切な希望をしりぞけかねて、自分では好きになれない茶の湯や活花のゆるしまで取つてゐたし、長唄はその道の識者を驚ろかすに足る芸だつた。腕を首につるし、仰山にびつこをひき、ぢぢむさい握りのついた杖にすがり、へつぴり腰をしながら港の酒場へ通ふ男が、家庭では母と妹の相手をして静かな昼下りや宵のひととき現世のものではないやうな三曲合奏をしてゐたり、母のたてる一服の薄茶を行儀正しく啜つてゐたりするのだつた。さういふ世界の古めかしい因習や畸形的な無形の性格が、母親の祈願には無関係に育ちはじめた当太郎の新らたなさうして奔放な人生苦難の世界にとつて、鼻持のならない原罪の姿をとり、自己嫌悪を深めさせた。家庭の自分を友達に見せることさへ彼は厭がるのであつたが、自分一人で自分の姿を意識するのも容易ならぬ苦痛であつた。日常のどういふ意慾や感情の中に自分の真実の姿を探していいのか分らなくなつてしまふのだつた。
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太宰治 |
【虚構の春】
わが名は、なでしことやら、夕顔とやら、あざみとやら。 |
久坂葉子 |
【幾度目かの最期】
小母さん、だけど、私は、駄目。一週間おいて、過去の人に会った。駅で小一時間、待った。もう冷くしよう。彼には、通り一ぺんの挨拶でわかれてしまえと思った。私は、だけど何てひどい女でしょう。あの夜程、自己嫌悪にみちたことはありません。私は、彼とのみながら、お喋りしながら、又、自分の彼への愛をみとめてしまったのです。彼の本当の愛情を感じることが出来たんです。彼を私は誤解してたんです。彼はやっぱり、私を真実に愛してくれてました。
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宮本百合子 |
【文字のある紙片】
私は無慈悲な、冷酷な女ではない筈だ。私は彼をしんから愛した。同時にいやなところをしんから嫌った。彼は不運なことにこの私の嫌がり丈を強く感じた。そしてああいうことになったのだが――気の毒だ。実に気の毒だ。而も、こうやって、制し難くこみあげて来る苛立たしいような、腹立たしいような、泣くに泣かれずむかつく激情は何だろう。私は、彼の上に泣き倒れられない自分を腹の底から憎む。その自己嫌悪を追いつめてゆくと、恐ろしいことだが、彼にも深い憎しみを感じずにいられない。鼻のわきに悪人づらの皺をよせ、 『到頭勝ちましたね。口惜しいが貴方の註文通り私は苦しんでいる。ハッハ』 |
中島敦 |
【斗南先生】
三造は、まず、この点に向って、心の中で伯父を非難した。自分で一人前の生活もできないのに、 |
久坂葉子 |
【灰色の記憶】
私は自分をみたり、母親や女の人達の考えることや行動に注意してゆくうちに、それが滑稽なほど、男性や或いは生活によって巧みに動かされ、丸くなったり四角くなったりすることに気付いた。特殊な場合があったとしても、それは世間的に通用しなく、弱さを無理にカヴァーして意地をはっているようにしか思えなかった。私は両者ともひどく軽蔑した。そして自分をもその中にふくみこんで自己嫌悪した。女が鏡をみるのは、自分をみると同時に、自分がどんなにみえるのかを見るためだ、とある作家が云っていた。私には、それぞれの女性が、たえず自分がどんなにみえるかのために、あらゆるポーズを試みているように思われた。女が其の恋愛をしてみたところで、それは真の恋愛をしているその瞬間の快楽よりも、そうすることの得意さ、人の目に映じる自分の姿に対する自己満足にすぎないように思われた。(それが女性の快楽であるかもしれないが)今まで、涙ながして何度もみた恋愛映画に於いても、私は思いかえしてみて、そこにあらわれたいろいろの女性は悉くそう云った自己満足のように思われた。それがハッピーエンドにならなくとも、女は又、その悲劇であることを誇らしげに吹聴し、苦しみもだえることは、苦しみもだえてみせることであるにちがいなく、恋愛でない場合にしても、女流作家が小説をかいて発表するのも、女代議士が立候補するのも、同じように本当の自分をはきだすのではなく、自分を幾重にも誇張してみせるように思われた。私はそのことにがっかりした。そして、自分が礼讃したい女性は皆無であり、ついで自己嫌悪の状態が続いた。 |
織田作之助 |
【猿飛佐助】
こうして佐助を牢屋へ入れると、胴六は早速韋駄天の勘六という者を走らせて、この旨を京の五右衛門のもとへ知らせた。やがて、どれだけ眠ったろうか、牢屋の中で眼を覚した佐助は、はげしい自己嫌悪が欠伸と同時に出て来た。 既に生真面目が看板の教授連や物々しさが売物の驥尾の蠅や深刻癖の架空嫌いや、おのれの無力卑屈を無力卑屈としてさらけ出すのを悦ぶ人生主義家連中が、常日頃の佐助の行状、就中この山塞におけるややもすれば軽々しい言動を見て、まず眉をひそめ、やがておもむろに嫌味たっぷりな唇から吐き出すのは、何たる軽佻浮薄、まるで |
岸田國士 |
【この握りめし】
若し岡本があの時握り飯を持つて駈けつけて来なかつたら、この旅の男は、或は、あのまゝ事切れていたかも知れぬ。それでも、警官としての自分の責任は、ともかく果したと言えば言えるのである。職務にも忠実だつた自分、偶然にもせよ一人の人命を救つた彼、この場合、職務に忠実であるとは、いつたい、なんだ。救い得る命を、わずかな気持の違いで、或は遂に亡びるに委せてかまわぬということか? 増田健次は、終日、苦悶し、自己嫌悪に陥り、岡本が彼に、なぜ警官などになつたかと詰問した意味がおぼろげにわかりかけた。
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