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人品骨柄
じんぴんこつがら
作家
作品

太宰治

【お伽草紙】

このお爺さんこそ、その左の頬の瘤を、本当に、ジヤマツケなものとして憎み、とかくこの瘤が私の出世のさまたげ、この瘤のため、私はどんなに人からあなどられ嘲笑せられて来た事か、と日に幾度か鏡を覗いて溜息を吐き、頬髯を長く伸ばしてその瘤を髯の中に埋没させて見えなくしてしまはうとたくらんだが、悲しい哉、瘤の頂きが白髯の四海波の間から初日出のやうにあざやかにあらはれ、かへつて天下の奇観を呈するやうになつたのである。もともとこのお爺さんの人品骨柄は、いやしく無い。体躯は堂々、鼻も大きく眼光も鋭い。言語動作は重々しく、思慮分別も十分の如くに見える。

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泉鏡花

【露肆】

 と青い帽子をずぼらにかぶって、目をぎろぎろと光らせながら、憎体にくてい口振くちぶりで、歯磨を売る。
 二三軒隣では、人品骨柄 じんぴんこつがら天晴あっぱれ黒縮緬くろちりめんの羽織でも着せたいのが、悲愴ひそうなる声を揚げて、ほとんど歎願に及ぶ。

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林芙美子

【新版 放浪記】

 行列は少しずつちぢまり、笑って出て来るもの、失望して出て来るもの、扉の前に立っている私達は、少しずついらいらとして来る。
 菜種問屋の、たった二人ばかり入用の女事務員がざっと百人あまりも並んでいる。やっと私の番になった。履歴書と引きくらべて、まず、人品骨柄、器量がいいか悪いかできまる。しばらく さら しものになって、ハガキで通知をしますと云う返事。こんなのは毎度のことで馴れてはいるけれど何とも味気ない。

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幸田露伴

【蒲生氏郷】

氏郷を会津に置いて葛西大崎の木村父子と結び付けたのは、氏郷に対して若し温かい情が有ったとすれば、秀吉の仕方はいささか無理だった。葛西大崎と会津との距離は余り懸隔して居る、其間に今一人ぐらい誰かを置いて連絡を取らせても宜い筈と思われる。温かでは無くて、冷たいものであったとすれば、あの通りで丁度宜いであろう。氏郷が秀吉にこころひそかに冷やかに思われたとすれば、それは氏郷が秀吉の主人信長の婿で有ったことと、最初は小身であったが次第次第に武功を積んで、人品骨柄の中々立派であることが世に認めらるるに至ったためとで、他にこれということも見当らぬ。

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野村胡堂

【錢形平次捕物控 若樣の死】

――伜があすこに居るぢやございませんか、一と眼逢はして下さい――と申しますと、――とんでもない、あれは當お屋敷の若樣で數馬樣と仰しやる方だ、 其方そのはうの伜文三とよく似てはゐらつしやるが、若樣は人品骨柄が違ひ、それに左の頬に目につくほどの 黒子ほくろ がある。お前の伜と間違へるなどはとんでもないことだ――といやもう散々のお叱りでございました

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中里介山

【大菩薩峠 お銀様の巻】

「お女中、気を確かにお持ちなさい、お怪我はないか」
と背を撫でているのは、その人品骨柄 じんぴんこつがらのよい覆面の侍ではなくて、その若党ともおぼしき覆面をしない侍でありました。
「はい、有難う存じまする、別に怪我はござりませぬ」
 お角はすぐにお礼と返事とをしました。
「何しろ危ねえことでございます、血がこんなに流れているから、わっしどもはまた、お前様がここに殺されていなさるとばかり思った」
 気味悪そうに提灯を突き出して四方あたりを見廻しているのは、やはりこの人品骨柄のよい覆面の侍のお ともをして来た草履取ぞうりとりたぐいであろうと見えます。
「血が流れていて人が殺されていないから不思議。お女中、そなたはいずれの、何という者」

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国枝史郎

【蔦葛木曽棧】

「そのお侍は幾人かの?」
「はいお一人でございます」
「幸いお連れもござるゆえ、ここの座敷へ通されるがよい」
「は」と返辞いらえて老僕は、襖を立てて立ち去ったが、人品骨柄いとも凛々しい、浪人姿の武士を一人案内しつつ帰って来た。
 武士はうやうやしく手をつかえたが、
「行き暮れましたる旅の武士、宿をお願い致したるところ早速御承引くださりまして、有難き儀にござります」

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Last updated : 2024/06/28