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人跡未踏
じんせきみとう
作家
作品

直木三十五

【大衆文芸作法】

 さて、現に存在している「科学小説」は次の三つの傾向によって分類しうる。
 その第一は、現在の科学の知識に基いて、それを奇怪な形に、一つの事件に結びつけて描いたもの。例えば――
 アサー・コナン・ドイルの「ロスト・ワールド」のごときものである。「ロスト・ワールド」は、既に映画化もされ読者諸君も御承知のように、南米の人跡未踏の内地に、前世界の動物である恐竜や飛竜や類人猿なぞが棲息している高地を探険する物語で、科学的智識に豊富なる空想力を加えて創造されたのである。

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内田魯庵

【明治の文学の開拓者 ――坪内逍遥――】

 坪内君の功労は誰でも知ってる。何も特にいわんでも解ってる。明治の文学の最も偉大なる開拓者だといえばそれで済む。福地桜痴ふくちおうち末松謙澄すえまつけんちょうなどという人も創業時代の開拓者であるが、これらは鍬を入れてホジクリ返しただけで、真に力作して人跡未踏の処女地を立派な沃野長田たらしめたのは坪内君である。

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木暮理太郎

【日本アルプスの五仙境】

 一帯に人跡の稀な南アルプスの中でも、遠山川の流域を含む山や谷は、駿信の国境山脈即ち赤石山脈の本脈を除けば、殆んど人跡未踏の地ばかりで、到る所に仙境が在り、人間を知らない 羚羊かもしかや鹿の群が悠然と遊んでいるという有様です。南アルプスの帝王三千百九十二米の北岳の頂上をはじめとし、仙丈岳の頂上でも、塩見岳の頂上でも、又は奥西河内おくにしごうち岳の頂上でも、不思議に美しいお花畑が見られます。

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竹久夢二

【砂がき】

 登山會といふ會はどういふことをするのか私は知らないが、多分、人跡未踏の深山幽谷を踏破する人達の會であらう。自分も山へ登る事は非常に好きだが、敢て、高い山でなくとも、岡でも好い。氣に入つたとなると富士山へ一夏に三度、筑波、那須へも二度づゝ登つたが、いつも東京の街を歩くよりも勞れもせず、靴のまゝで散歩する氣持で登れた。

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長谷川時雨

【木魚の顔】

 あの老人が山へはいると仙人のように身軽になって、岩の上なんぞはピョンピョンと飛んでしまい、けわしい個所ではスーッと消てしまったように見えなくなる。気がつくとはるか向うでコツコツ何かやっている。さながら、人跡未踏 じんせきみとうの山奥が、生れながらの住家のようで、七十を越した人などとはとても思われない。山の案内人などの話でも老爺さんが一足み入れて、あるといった山に硫黄のなかったためしがなく、歩いていると、ふと向うの山の格好を見て言いあてる。土地の者たちも神様のように言っているというのだった。

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本庄陸男

【石狩川】

 しかも、北辺警備の本心を蝦夷えぞ地開拓の言葉につつんでうろうろしていた開拓使庁は、漠然ばくぜんとこの地域の一帯をもとの伊達だて藩にひき渡したのである。境界はあるような無いようなものであった。むろん、人跡未踏のこの 宏大こうだいな原野は、そのときの人の考えではどうにも仕末におえなかったのであろう。したがって、開墾しようとするものに与える土地はいくらでもあった。

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中谷宇吉郎

【比較科学論】

 ところが、これに反して、犯人の名前が分らないばかりでなく、犯人がいるかいないかも分らない場合もある。アマゾンの上流、人跡未踏の土地へ分け入った生物学者の場合がそれである。どんな珍奇な生物がいるかもしれないし、またいないかもしれない。この場合も、探すのであるが、その探すという意味が、犯人を捜索する場合とは大分ちがっている。思いがけない新種の発見は、アマゾンの上流だけに限らず、物理の実験室の中にもある。

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吉川英治

【三国志 出師の巻】

 五十万という大軍の運命をその指揮にになっている重任はいうまでもない。かつはまた、従来の戦場とちがって、風土気候も悪いし、輸送の不便は甚だしいし、嶮山けんざん密林、ほとんど人跡未踏の地が多い。
 ひとたび敗れんか、魏や呉は、手を打って、奔河ほんがの堤を切るように蜀へなだれ込むだろう。

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Last updated : 2024/06/28