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寂滅為楽
じゃくめついらく
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作家
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作品
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【二人の友】
或曇つた冬の日の午後、僕等は皆福間先生の柩を今戸のお寺へ送つて行つた、お葬式の導師になつたのはやはり鴎外先生の「二人の友」の中の「安国寺さん」である。「安国寺さん」は式をすませた後、本堂の前に並んだ僕等に寂滅為楽
の法を説かれた。
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【老年と人生】
働く時にも怠ける時にも、僕らは絶えずその苛虐の鞭に打たれているのだ。そこで仏陀やショペンハウエルの教える通り、宇宙は無明の闇夜であって、無目的な生命意慾に駆られながら、無限に尽きない業の連鎖を繰返しているところの、嘆きと煩悩の娑婆世界に外ならない。しかもその地獄から解脱するには、寂滅為楽
の涅槃に入るより仕方がないのだ。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏と、何遍唱えたところでピリヨードがない。
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【上田敏訳 海潮音】
黒檀の森茂げきこの世の涯の老国より来て、彼は長久の座を吾等の傍に占めつ、教へて曰く『寂滅為楽』。
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【恩人】
叔父は問われるままに京都の種々な話をした。旧御所の中の編笠をかぶってお化粧した掃除女の群や、清水の茶店を守っている八十幾歳の老婆の昔語りや、円山公園の夜桜、それから大原女の話、また嵯峨野の奥の古刹から、進んでは僧庵や尼僧の生活まで。そしてこうつけ加えた。
「一体彼等の、特に尼僧の生活には矛盾があるようだね。彼等は静かな勤行の生活のうちに、過去のなつかしい思い出を深く深く掘ってゆく。その思い出が親しくなり美しくなるに従って、それを寂滅為楽の途に進むことと思っているらしいんだ。そして遂には前に進むことを知らないで、過去へ過去へと全く向き返ってしまって退くばかりなんだね。」
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【天竜川】
王朝時代のデカダン詩人、
業平の東下りは、哀れにも華やかな序幕を明けた、さうしてそれから後に、多くの「東下り」なる悲劇が、殊に多く川の岸を舞台として、演ぜられてゐるのは、注意すべきことであらう、行きて返らぬ川の姿と、石にせゝらぐ水の啜り泣きと、荒涼として河原蓬の風にそよぎ、蘆花の衰残する川景色は、さなきだに寂滅為楽の虚無思想を、背景としてゐる当時の人たちに、いかにやるせない心の悶えを起させたであらう。されば大河を前に、うつろひ易い人生の姿を見てあれば、「
水無月や人の淵瀬の大井川」(蓼太)といつたやうな感じに打たれないものはなかつたであらう。
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【般若心経講義】
『雑阿含経』には書いておりますが、とにかく、無明の心を解脱して、苦を滅し尽くした境地が、滅諦すなわち涅槃です。あの「いろは」歌でいえば、「あさきゆめみじ、ゑひもせず」という最後の一句は、「寂滅為楽
」という「涅槃の世界」をいったものです。「あさきゆめみじ」とは、あさはかな夢をみないということです。「ゑひもせず」とは、無明の酒に酔わされぬということです。つまり「酔生夢死」をしないということで、つまり涅槃の世界に安住するその気持を歌ったもので、ボンヤリ一生を送らないということです。
あの謡曲の「三井寺」や、長唄の「娘道成寺」の一節に、
「鐘にうらみが数々ござる。初夜の鐘をつく時は、諸行無常と響くなり。後夜の鐘をつく時は、是生滅法と響くなり。晨朝は生滅滅已、入相は寂滅為楽
と響くなり。聞いて驚く人もなし。われも後生の雲はれて、真如の月を眺めあかさん」
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【晶子鑑賞】
鏡に写つた我が黒髪には紛ふ方なき大きな撓が出来てゐる、その撓を見てゐると影の形に添ふ様に之を造らせた手枕の形が現はれる、さうして鏡は、私が今しがた迄手枕をして横になり物思ひにふけつてゐたのだといふことをはつきり示してくれる。私はその間何を思つてゐたのだらうか。先づそんな様な趣きの歌ではなからうかと思はれる。作者はここでも例によつて我が黒髪をさへ擬人して夢を見させてゐる。
山の霧寂滅為楽としも云ふ鐘の声をば姿もて告ぐ
祇園精舎の鐘の声諸行無常の響ありといふ、平家の書き出しから進んで道成寺の文句となり、甚だ耳に親しくなつてゐる鐘声にこもる四句の偈中寂滅為楽の妙境が鐘声といふ音楽に現はれる代りに、絵画的の姿、形をとつて現はれたものが目前の山の霧であつて、即ち仏法最後の涅槃境に外ならないのであらう。
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Last updated : 2024/06/28