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心織筆耕
しんしょくひっこう
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作家
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作品
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【薄紅梅】
麹町九段――中坂は、武蔵鐙、江戸砂子、惣鹿子等によれば、いや、そんな事はどうでもいい。このあたりこそ、明治時代文芸発程の名地である。かつて文壇の梁山泊と称えられた硯友社、その星座の各員が陣を構え、塞頭高らかに、我楽多文庫の旗を飜した、編輯所があって、心織筆耕の花を咲かせ、
綾なす霞を靉靆かせた。
若手の作者よ、小説家よ!……天晴れ、と一つ煽いでやろうと、扇子を片手に、当時文界の老将軍――佐久良藩の碩儒で、むかし江戸のお留守居と聞けば、武辺、文道、両達の依田学海翁が、一夏土用の日盛の事……生平の揚羽蝶の漆紋に、袴着用、大刀がわりの杖を片手に、芝居の意休を一ゆがきして洒然と灰汁を抜いたような、白い髯を、爽に扱きながら、これ、はじめての見参。……
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【「鏡花全集」目録開口】
先生の業の偉いなるは固より先生の天質に出づ。然りと雖も、其一半は兀兀三十余年の間、文学三昧に精進したる先生の勇猛に帰せざる可からず。言ふを休めよ、騒人清閑多しと。痩容豈詩魔の為のみならんや。往昔自然主義新に興り、流俗の之に雷同するや、塵霧屡高鳥を悲しましめ、泥沙頻に老龍を困しましむ。先生此逆境に立ちて、隻手羅曼主義の頽瀾を支へ、孤節紅葉山人の衣鉢を守る。轗軻不遇の情、独往大歩の意、倶に相見するに堪へたりと言ふ可し。我等皆心織筆耕の徒、市に良驥の長鳴を聞いて知己を誇るものに非ずと雖も、野に白鶴の廻飛を望んで壮志を鼓せること幾回なるを知らず。一朝天風妖氛を払ひ海内の文章先生に落つ。噫、嘘、先生の業、何ぞ千万の愁無くして成らんや。我等手を額に加へて鏡花楼上の慶雲を見る。欣懐破願を禁ず可からずと雖も、眼底又涙無き能はざるものあり。
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Last updated : 2024/06/28