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心頭滅却
しんとうめっきゃく |
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作家
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作品
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太宰治 |
【津軽】
十七時三十分上野発の急行列車に乗つたのだが、夜のふけると共に、ひどく寒くなつて来た。私は、そのジヤンパーみたいなものの下に、薄いシヤツを二枚着てゐるだけなのである。ズボンの下には、パンツだけだ。冬の外套を着て、膝掛けなどを用意して来てゐる人さへ、寒い、今夜はまたどうしたのかへんに寒い、と騒いでゐる。私にも、この寒さは意外であつた。東京ではその頃すでに、セルの単衣を着て歩いてゐる気早やな人もあつたのである。私は、東北の寒さを失念してゐた。私は手足を出来るだけ小さくちぢめて、それこそ全く亀縮の形で、ここだ、心頭滅却の修行はここだ、と自分に言ひ聞かせてみたけれども、暁に及んでいよいよ寒く、心頭滅却の修行もいまはあきらめて、ああ早く青森に着いて、どこかの宿で炉辺に大あぐらをかき、熱燗のお酒を飲みたい、と頗る現実的な事を一心に念ずる下品な有様となつた。青森には、朝の八時に着いた。T君が駅に迎へに来てゐた。私が前もつて手紙で知らせて置いたのである。「和服でおいでになると思つてゐました。」 |
太宰治 |
【風の便り】
肉鍋の傍に大あぐらをかいて、「奴隷の平和」をほくほく享楽しているのも、まんざら悪くない気持で、貧乏人の私には、わかり過ぎる程わかっているのですが、でもモーゼの義心と焦慮を思うと、なまけものの私でも重い尻を上げざるを得なくなります。少し興奮しすぎたようです。きょうは朝から近頃に無く気持がせいせいしていて慾も |
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