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疾風怒濤/疾風怒涛
しっぷうどとう |
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作家
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作品
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太宰治 |
【津軽】
東京のお客さんに、うちの砂糖全部お土産に差し上げろ。いいか、忘れちやいけないよ。全部、差し上げろ。新聞紙で包んでそれから油紙で包んで紐でゆはへて差し上げろ。子供を泣かせちや、いかん。失敬ぢやないか。成金趣味だぞ。貴族つてのはそんなものぢやないんだ。待て。砂糖はお客さんがお帰りの時でいいんだつてば。音楽、音楽。レコードをはじめろ。シユーベルト、シヨパン、バツハ、なんでもいい。音楽を始めろ。待て。なんだ、それは、バツハか。やめろ。うるさくてかなはん。話も何も出来やしない。もつと静かなレコードを掛けろ、待て、食ふものが無くなつた。アンコーのフライを作れ。ソースがわが家の自慢と来てゐる。果してお客さんのお気に召すかどうか、待て、アンコーのフライとそれから、卵味噌のカヤキを差し上げろ。これは津軽で無ければ食へないものだ。さうだ。卵味噌だ。卵味噌に限る。卵味噌だ。卵味噌だ。」私は決して誇張法を用みて描写してゐるのではない。この疾風怒濤の如き接待は、津軽人の愛情の表現なのである。 |
三好達治 |
【海辺の窓】
私のいつもいふ、まるで急行列車がトンネルに走入つたやうな、その騒音は、夜の夜中、反つてそれをききなれた私の耳には、はげしい刺戟といふよりも一つの平和な常態で、その騒音は、私の耳には、いはばある安定感の保証のやうなものでもあつた。ところが、その夜はふと、その耳を聾しつづけて鳴りひびいてゐる騒音、疾風怒濤の中に、ふつとかすかに人の叫び声のやうなものがきこえた。夜半に墨など磨つてゐる孤独な男といふものは、そんな騒音の中でも、外界のもの音には意外に敏感なものである。私は耳をそばだてた。その叫び声は、しばらくの間合をおいて、私の推量が途方をうしなつて、自分の耳をうたがひはじめる時分にまたふとかすかに、遠い闇の中に、方角もきはめて曖昧に、まぼろしのやうに、ながく尾をひく呼び声となつてきこえてきた。それはそんな風に二三度もくりかへした。
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