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支離滅裂
しりめつれつ |
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作家
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作品
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夏目漱石 |
【作物の批評】
云う事がわかる。また沙翁を引き合に出す。オセロは四大悲劇の一である。しかし読んでけっして好い感じの起るものではない。不愉快である。(今はその理由を説明する余地がないから略す)もし感じ一方をもってあの作に対すれば全然愚作である。幸にしてオセロは事件の |
有島武郎 |
【幻想】
それにも係らず大望は彼れを捨てなかつた。彼れも大望が一番大切だつた。自分の生活が支離滅裂だと批難をされる時でも、大望を圓心にして輪を描いて見ると、自分の生活は何時でもその輪の外に出てゐる事はなかつた。さう云ふ事に氣がつくと急に勇ましくなつて、喜んで彼れは孤獨を迎へた。
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坂口安吾 |
【長島の死】
私は長島の危篤の病床で、この物語を思ひ出してゐたのである。一つには長島もこの物語を読んでゐたからであつて、ある日私にそのことを物語つた記憶が残つてゐたからであらう。そのことと関係はないが、彼は私への形見にポオの全集とフアブルの昆虫記の決定版とを送るやうにと家族に言ひ残して死んだ。彼の病床での |
太宰治 |
【津軽】
慎しまうと思ひながら、つい、下手な感懐を述べた。私の理論はしどろもどろで、自分でも、何を言つてゐるのか、わからない場合が多い。嘘を言つてゐる事さへある。だから、気持の説明は、いやなのだ。何だかどうも、見え透いたまづい虚飾を行つてゐるやうで、慚愧赤面するばかりだ。かならず後悔ほぞを噛むと知つてゐながら、興奮するとつい、それこそ「廻らぬ舌に鞭打ち鞭打ち」口をとがらせて呶々と支離滅裂の事を言ひ出し、相手の心に軽蔑どころか、憐憫の情をさへ起させてしまふのは、これも私の哀しい宿命の一つらしい。
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二葉亭四迷 |
【エスペラントの話】
英語が国際語になつたら英人には都合が好からうが |
堀辰雄 |
【小説のことなど】
たとへば、一つの戀愛を描くときにも、自分の感情全部から、その一部を孤立させ、誇張し、――同時にそれを純粹にさせて、描くよりほかはない。その結果、小説中の「私」の氣持は、現實の私の氣持とは似てもつかないものとならざるを得ない。勿論それは嘘ではないのだが、それがそつくり本當の氣持かといふと、必ずしもさうではない。私自身の場合などでは、私はなまじつか私小説らしいものを書いたため、他人に私を識つて貰つた分量より、むしろ誤解された分量の方が多いのでないかといふ氣がするくらゐだ。――それでは、さういふ複雜な氣持をそつくりそのまま書いたらいいではないかと云ふ考へが一應は起る。が、さうなると、いきほひ支離滅裂なものになつて、殊にこれまで私達の書いてきたやうな、活きた混沌から一つの小さな秩序を得ることをその本分とする短篇小説などの中には、到底盛ることは出來ない。――むしろ、矛盾したそれぞれをはつきり分離させて、それぞれ異つた性格に負はせ、そしてそれぞれを思ふ存分に活動させることをその本分とする長篇小説が書けるやうになるまで、何とか誤魔化してゐてやれと云つた氣持で、知らん顏をしてゐたのが、先づ私の正直なところである。
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石橋忍月 |
【舞姫】
今本篇の主人公太田なるものは |
三好達治 |
【測量船拾遺】
私がこれらの作品を書いた当時の詩壇は、今日からは到底想像もつかないやうなひどい混乱状態に在つて、見識もなく才能も乏しい私のやうなものは、周囲の情勢にもつねに左右され、五里霧中でひきまはされたやうな感がなくもない。その点ででも私は今日たいへん恥かしい思ひをしてゐる。その当時の情勢は、事情の全く異つた今日からは、容易にくはしく説くことを得ないし、それはまた他に人があつて、他のところで説明されることもあらう。私の作品には、さういふ時代の混乱の影がふかく、支離滅裂の感がいちじるしい。用語も浅薄で、気まぐれで、しつかりとした思想の支柱がなく、また無理な語法を無理にも押通して駆使しようと試みた跡が、今日の私には甚だ眼ざはりで醜く見える。それは勿論時勢のせゐといふばかりでなく、私個人の用意の到らなかつたのがその専らな理由で、それやこれや思ひあはせてまことに慚愧に耐へないことが多い。
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牧野信一 |
【茜蜻蛉】
白いらつぱ草の花が、涌水の傍らに、薄闇に浮んで居り、水の音が静かであつた。咲いてゐるなとわたしはおもつた。トラムペツト・フラワ? いや、あれは凌霄花の意味だつたが、凌霄花もラツパ草も、うちでは昔から何処に移つても咲いてゐるが、誰もあの花が好きと云つたものも聞かぬのに――わたしは意味もなくそんなことをつぶやいた。泉水には水葵が一杯蔓つて、水溜りの在所も見定め難かつた。ラヂオが歌舞伎劇を放送してゐた。わたしは、紙屑のやうな心地であるだけだつた。吾ながら薄ぼんやりとした姿でわたしは、どこからともなく母の家へ戻つた。母も訊ねもせず、わたしも云はうともしなかつたので、まつたくわたしは何処から戻つて来たのか、きのふまでのことも、もう夢のやうであり、何処を何うしてゐたのか自分ながら支離滅裂であつた。――ただ母とわたしは何の変哲もなく、懐しみに富んだわらひを浮べただけだつた。余程わたしは疲れてゐたと見えて、無性に母の家のあかりが甘く、故郷の空気を貪るおもひであつた。母と子の情感を、不思議に沁々と感じた。
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