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社交辞令
しゃこうじれい
作家
作品

太宰治

【親友交歓】

 一つには、歌に依ってこの当面の気まずさが解消されるだろうという事と、もう一つは、それは私の最後のせめてもの願いであったのだが、とにかく私はお昼から、そろそろ日が暮れて来るまで五、六時間も、この「全く附き合いの無かった」親友の相手をして、いろいろと彼の話を聞き、そのあいだ、ほんの一瞬たりともこの親友を愛すべき奴だとも、また偉い男だとも思う事が出来ず、このままわかれては、私は永遠にこの男を恐怖と嫌悪の情だけで追憶するようになるだろうと思うと、彼のためにも私のためにもこんなつまらない事はない、一つだけでいい、何か楽しくなつかしい思い出になる言動を示してくれ、どうか、わかれ際に、かなしい声で津軽の民謡か何か歌って私を涙ぐませてくれという願望が、彼の歌をやらかそうという動議に依ってむらむらと胸中にき起って来たのである。
「それあ、いい。ぜひ一つ、たのむ」
 それは、もはや、軽薄なる社交辞令ではなかった。私は、しんからそれ一つに期待をかけた。
 しかし、その最後のものまで、むざんに裏切られた。

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神西清

【夜の鳥】

 そんな彼に、われわれはHの別荘で、ほとんど二十年ぶりに再会したわけだ。懐かしいといふより、一種の間のわるさが先に立つた。年月の空白といふものは、男の場合でも女の場合でも、何ともぎごちないものだからである。男女の間なら、一種の擬勢でそれを埋めることができるかも知れない。だが男どうしでは、その助け舟も頼みにはならない。
 外交官のSは、身についた社交辞令で、とにかくGのその後の生活について根掘り葉掘り問ひかけたが、満足な答は得られなかつた。Gが照れる先に、当のSが照れてゐるのだから話にならない。結局わかつたことは、Gが現在独身であること(その口ぶりでは、どうやら一度は結婚したらしくある――)、それにもう一つ、朝鮮や満洲に十ほど病院を建てて来た、といふことだけだつた。口数の少ない かつての彼を見馴みなれてゐるわれわれは、それだけで十分満足した。

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  • それぞれの四字熟語の詳しい意味などは、辞典や専門書でお確かめください。
  • このサイトの制作時点では、三省堂の『新明解 四字熟語辞典』が、前版の5,600語を凌ぐ6,500語を収録し、出版社によれば『類書中最大。よく使われる四字熟語は区別して掲示。簡潔な「意味」、詳しい「補説」「故事」で、意味と用法を明解に解説。豊富に収録した著名作家の「用例」で、生きた使い方を体感。「類義語」「対義語」を多数掲示して、広がりと奥行きを実感』などとしています。

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Last updated : 2024/06/28