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杓子定規
しゃくしじょうぎ
作家
作品

森鴎外

【柵草紙の山房論文】

逍遙子せうえうしと露伴子とすなはちこれなり。ならびに是れ自ら詩人たる人にしあれば、いづれも阿堵中あとちゆうの味えも知らざるともがらとは、日を同うして論ずべからざるよしあらむ。われもとより善詩人は即好判者なりといふものならねど、自ら經營の難きを知るものは、みだり杓子定規 しやくしぢやうぎうち振りて、枘鑿ぜいさくその形をことにして、相容あひいれざるやうなる言をばいかゞ出さむ。二子の文を論ずるや、その趣相ること遠けれど、約していへば、逍遙子はくものを容れ、露伴子は能くものを穿うがつ。

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夏目漱石

【創作家の態度】

女房のくせに何だむやみにふくれてなどとどやされます。子供のくせに何だ親に向って口答をしてなどとやり込められます。とかく何々のくせにと、くせが流行した世の中であります。癖に流行はやる世の中ほど理想の一定した世の中はないのであります。町人はかくあるべきもの、女房はかくすべきもの、子供はかく仕えべきものと、杓子定規 しゃくしじょうぎで相場がきまっております。もっともこれは双方合意の上でなければ成立しない訳でありますから、町人の方でも、子供の方でも、女房の方でも、どんな理想的人物をもって予期されても、立派にその予期を たすつもりでいたのであります。

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幸田露伴

【風流仏】

今朝けさも仏様に朝茶あげる時懺悔ざんげしましたから、爺が勧めて爺がせというは黐竿もちざお握らせて殺生せっしょうを禁ずるような者で真に云憎いいにくき意見なれど、ここを我慢して謝罪わびがてら正直にお辰めを思い切れと云う事、今度こそはまちがった理屈ではないが、人間は活物いきもの杓子定規 しゃくしじょうぎの理屈で平押ひらおしにはゆかず、人情とか何とか中々むずかしい者があって、遠くも無い寺まいりして御先祖様の墓にしきみ一束手向たむくやすさより孫娘に友禅ゆうぜんかっきせる苦しい方がかえっ仕易しやすいから不思議だ、

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林芙美子

【浮雲】

「米がなくちやア泊められないつて云ふンで、家内が、何処どこかで一升買つて来た様ですよ……」
「なるほどね。そんなもンですよ。闇米はいくらでも売つてますからね。わざわざ、伊香保くんだりまで来る客を、追ひ返すみてえな事をして、何の宣伝もありやしません。商人は客に来てほしくても、つまらん統制つて奴が、杓子定規 しやくしぢやうぎでね。えらい不景気が来さうですな」
「物より金の時代になりますかね」

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中島敦

【弟子】

 数日後、子路がまた街を歩いていると、往来の木蔭こかげ閑人達かんじんたちさかんに弁じている声が耳に入った。それがどうやら孔子の噂のようである。――むかし、昔、と何でもいにしえかつぎ出して今をおとす。誰も昔を見たことがないのだから何とでも言える訳さ。しかし昔の道を杓子定規 しゃくしじょうぎにそのままんで、それでうまく世が治まるくらいなら、誰も苦労はしないよ。おれ達にとっては、死んだ周公よりも生ける陽虎様ようこさまの方が偉いということになるのさ。

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下村湖人

【現代訳論語】

 先師――
「では、おかけなさい。話してあげよう。仁を好んで学問を好まないと、見さかいのない痴愚の愛に陥りがちなものだ。知を好んで学問を好まないと、筋道の立たない妄想を逞しうしがちなものだ。信を好んで学問を好まないと、小信にこだわって自他の幸福を害しがちなものだ。直を好んで学問を好まないと、杓子定規になり、無情非礼を敢てしがちなものだ。勇を好んで学問を好まないと、血気にはやって秩序を紊しがちなものだ。剛を好んで学問を好まないと、理非をわきまえない狂気じみた自己主張をやりがちなものだ。」

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内田魯庵

【淡島椿岳 ――過渡期の文化が産出した画界のハイブリッド――】

 因襲を知るものは勢い因襲にとらわれる。日本人は画の理解があればあるほど狩野かのう派とか四条派とか南宗とか北宗とかの在来の各派の画風に規矩きくされ、雪舟せっしゅうとか光琳こうりんとか文晁ぶんちょうとか容斎ようさいとかいう昔しの巨匠の作になずんだ眼で杓子定規に鑑賞するから、 偶々たまたま芸術上のハイブリッドを発見しても容易に芸術的価値を与えようとしない。外国人は因襲を知らないから少しも因襲にわずらわされないで、自己の鑑賞力の認めるままに直ちに芸術的価値を定める。

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沖野岩三郎

【アラメダより】

船客の中には一個人のために出港を遅らせるのは不都合だというものもあったが、彼はとうとう鶴見祐輔君の来着を待って、桑港を出帆した。おかげで鶴見君は第一回の普選に見事当選の栄を得たのであった。伊藤船長が杓子定規だったら鶴見君のあの活躍はなかったのだともいえる。

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中里介山

【大菩薩峠 椰子林の巻】

「政治家の秘訣ひけつはなにもないよ、ただ誠心誠意の四字ばかりだよ――内政のことにしろ、この秘訣を知らないから、どうも杓子定規 しゃくしじょうぎで、さっぱり妙味というものがない。徳川氏のやり方は、いま言った四字の秘訣を体認して、よく民を親しんで、実地に適応する政治をやったものだ、その重んずるところは人にあって、法にあるのではない、八代将軍の時に諸法度しょはっとの類もやっと出来上ったくらいだが、それにしても北条時代の式目が土台になっている、あの貞永式目じょうえいしきもくというのが深く人心にみ込んでいるものであり、なにもわざわざアクドイ新体制を作って民を惑わすがものはない、この辺をよく注意したものさ」

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吉川英治

【私本太平記 帝獄帖】

「いや、鎌倉の指示で、一切の刃物や火気は厳禁とされておる。まして今暁のような残党どものうごきもあっては」
「でも、そう 杓子定規しゃくしじょうぎにとらわれず、そこは何とかなりませんか。いかに鎌倉のおさしずでも」
 道誉は樗門おうちもんを振りむいた。その眸にはなにか人にうかがわせぬ深淵しんえんのようなものが潜んでいた。

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  • それぞれの四字熟語の詳しい意味などは、辞典や専門書でお確かめください。
  • このサイトの制作時点では、三省堂の『新明解 四字熟語辞典』が、前版の5,600語を凌ぐ6,500語を収録し、出版社によれば『類書中最大。よく使われる四字熟語は区別して掲示。簡潔な「意味」、詳しい「補説」「故事」で、意味と用法を明解に解説。豊富に収録した著名作家の「用例」で、生きた使い方を体感。「類義語」「対義語」を多数掲示して、広がりと奥行きを実感』などとしています。

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Last updated : 2024/06/28