|
■このサイトに登録されている四字熟語を検索します。平仮名での検索や一文字からの検索、絞り込み検索などもできます。
小人閑居
しょうじんかんきょ |
|
作家
|
作品
|
---|---|
永井隆 |
【ロザリオの鎖】
夕方いわしの配給があったので、おろし大根にあの赤とうがらしをすりこんで添えて食ったら、とまた思い出した。なんとかして一房でも手に入れたいものだ。そう思ったら矢も盾もたまらなくなった。しかし私にも体面があるから、まさかとうがらし一房くださいと隣の娘に頭を下げて頼みにゆくわけには参らぬ。頭を下げずにうまくわが物にする手段はないか、といろいろ策略を練ってみた。小人閑居してろくなことは考えない。さて、夕の祈りになる。今日犯した罪を天主の十戒や七つの罪源など一つ一つについて吟味してゆくうち、「第十、なんじ他人の所有物をみだりに望むなかれ」のところで、赤とうがらしに突き当たった。あれは忌むべき罪ではなかったのか?──赤とうがらしが欲しいとふっと思うのは人情だから仕方がないとしても、それをそれまでであっさり思い切ればよかったものを、なんとかして手に入れてやろうと、よからぬ策略をあれこれ考えたのはいけなかった。 |
内田魯庵 |
【家庭の読書室】
常に読書してゐれば話題が自づから富んで来る、他人の瑕瑾ばなしなぞしないでも済む。贅沢の自慢や羨ましがりなんぞは馬鹿々々しくなる、一と口に云へば女がもう少しエラクなる。一体女は用が無いものだ、家庭の用事なんぞは大した忙がしいもんでは無い。勿論児童が五人も六人もあれば少しは児童の世話をしなければならぬが、夫婦差向ひの家庭、殊に植民地あたりの家庭は先づ用が無いものだ。用が無いから、ソコデ小人閑居して不善を為す、男にも小人は多いが、女には男よりも更に一層小人が多い、碌な事をしをらん。よその奥さんの瑕瑾探しをしたり、羨ましがつたり、妬たんだり、慢つたり衒つたりするに維れ日も足らずといふやうになる。之には何よりも読書するが妙薬である。 |
宮本百合子 |
【「禰宜様宮田」創作メモ】
○人間がひまだと、ろくなことをしないと云うのはほんとうだ。孔子が、小人閑居して不善を為す と云ったのは、 その雑念の起って来ることは、小人の所以であろうが、又自分には、尊いところであろうとも思う。 |
相馬愛蔵 |
【私の小売商道】
上州のある製糸家の話に、工女に日曜の休暇を与えてからは、他の工場に比して病人は減少し、工女の手にただれの出来るのが甚だ少なくなった。また日曜は宗教上の簡易な談話をきかせ、肉霊ともに静養を与えたところが、下品な話や挙動は改まり、気品は高くなって大いに風紀の改良が出来たが休暇の翌日すなわち月曜日は、動物の月曜病と同じく、一種の遊びぐせがついて仕事に身が入らず甚だ不成績である。また休暇なき工場に養われた工女は、もし怠って役員から発見されれば、減食あるいは打擲の罰を加えられるので、自然気が強くすなわち気が張っており、よほど沢山の仕事を命じてもなかなか閉口しないが、我が工女は気が優しく意気地がなく、忍耐力の減少しつつあることは著しい事実である、と言われている。ゆえに日曜日半日は宗教の談話を聞かせ、半日は自分の洗濯や針仕事に精を出させるように仕向け、これによって幾分その怠り癖を防禦しつつあると。また今日まで日曜休業して居った有名な店で、近来休暇を廃して営業することになったものもある。されば日曜休暇をするの可否は、大いに研究すべきものと思う。ある識者は雇人に休暇を与うることを全く認めずして曰く、小人閑居して不善を為すという譬の如く、休みを与えらるるのは彼ら飢えた狼に肉を見せびらかすと同じことである。すべての悪所に突進して、日頃の鬱を散ずることであろう。その結果彼らに悪習慣を作らしめるのみである。ゆえに欧米各国の如く、普く文明の行き渡らない我邦においては断じて雇人に日曜の休暇を与えないがよいという説である。 |
中里介山 |
【大菩薩峠 山科の巻】
咽喉をグイグイと鳴らしたけれど、いずれを見ても酒はなし、吸物椀もないし、咽喉を鳴らし、その途端、 「チワ――これはこれは、御書見の いやはや、イケ好かない奴が来たもので、例の |
|