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生者必滅
しょうじゃひつめつ
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作家
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作品
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【吾輩は猫である】
悪寒はますます劇しくなる、眼はいよいよぐらぐらする。もしや四時までに全快して約束を履行する事が出来なかったら、気の狭い女の事だから何をするかも知れない。情けない仕儀になって来た。どうしたら善かろう。万一の事を考えると今の内に有為転変の理、生者必滅の道を説き聞かして、もしもの変が起った時取り乱さないくらいの覚悟をさせるのも、夫の妻
に対する義務ではあるまいかと考え出した。
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【釘抜藤吉捕物覚書 宇治の茶箱】
生前お関取りとまで綽名されていただけあって、大兵肥満の撰十は、こうして歳暮の鮭のように釣り下がったところもなんとなく威厳があって、今にも聞き覚えのある濁み声で、
「合点長屋の親分でげすかえ。ま、ちょっくら上って一杯出花を啜っていらっしゃい。」
とでも言い出しそうに思われた。それが一つのおかしみのようにさえ感じられて、前へ廻って屍体を見上げたまま、藤吉はいつまでも黙りこくって立っていた。昨夜見た時はぴんぴんしていた人のこの有様に、諸行無常生者必滅とでも感じたものか、
鼻汁を手の甲へすりつけながら、彦兵衛も寒々と肩を竦めていた。梁へ掛けた強い綱が、重い屍骸を小揺ぎもさせずに静かに支えていた。東寄りの武者窓から雪の手伝った暁の光が射し込んで、屍体の足の下に、その爪先きとほとんどすれすれに、宇治と荷札を貼った茶の空箱が置かれてあるのが、浮かぶように藤吉の眼に入った。
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【牛車】
毎日々々黒胡麻ばかり食はせられて、食べ附ない旨い物だからつい食べ過ぎてすつかり通じが留りましたので、逆せて目が悪くなつて、誠にどうも向うが見えませんから狭い通りへ行つて、拝観人の中へでも曳き込むやうな事があつて、怪我でもさせると大変だと思つて今から心配でございます、モウ明日になりました……夫に私の名が貴方、どうも蓮華班といふのでげすからな、おまけに夢の浮橋を渡るといふので替牛がお前さん、位牌班といふので名が一体に訝しうございます、私もモウ明日役に立てば宜うございますが、今晩にもヒヨツと生者必滅でございますから……。「然んな気の弱い事をいつちやア行けません、お加減が悪ければ、明日は御大役の事ですから早く牛の角文字にでも見せたら宜しうございませう…。
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【エリザベスとエセックス】
けれども、そのとき、奥の部屋では、かの侍史セシルが、ただ一人テーブルに坐って、ペンを動かしているのだった。あらゆる出来事は洞察したとおりのきかたをした。あらゆる準備はすでに整っている。残るはただ最後の一触を与えるだけのことである。重大なる王位移動も、いともらくらくと成し遂げられるであろう。ペンの動きとともに動いてゆく心に、思い浮かべる生者必滅の悲しさ。描き眺める国々の隆替の姿。そして彼は静かにはっきりと夢見る、時が、いまこうして書いている瞬間にも、もたらし続けている物を夢見る。それは二つの国家(イングランドとスコットランド)の結合であり、新しい支配者たちの勝利であり、――成功と権力と富も併せて――後代まで栄ゆる名であり、貴き血につながる、偉大なる家門であった。
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Last updated : 2024/06/28