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大慈大悲
だいじだいひ
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作家
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作品
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【藪の中】
わたしはどうしても、死に切る力がなかつたのです。小刀を喉に突き立てたり、山の裾の池へ身を投げたり、いろいろな事もして見ましたが、死に切れずにかうしてゐる限り、これも自慢にはなりますまい。(寂しき微笑)わたしのやうに腑甲斐ないものは、
大慈大悲の觀世音菩薩も、お見放しなすつたものかも知れません。しかし夫を殺したわたしは、盜人の手ごめに遇つたわたしは、一體どうすれば好いのでせう? 一體わたしは、――わたしは、――(突然烈しき歔欷)
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【無題抄】
大いなるものゝ力にひかれゆく……まことに、私たち人間のあゆみゆく姿は、大いなる天地の神々、大慈大悲のみ仏から見られたならば、蟻のあるきゆく姿よりも哀れちいさなものなのに違いありません。
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【古寺巡礼】
久しぶりに帰省して親兄弟の中で一夜を過ごしたが、今朝別れて汽車の中にいるとなんとなく哀愁に胸を閉ざされ、窓外のしめやかな五月雨がしみじみと心にしみ込んで来た。大慈大悲という言葉の妙味が思わず胸に浮かんでくる。
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【史論の流行】
英雄の人物を論ずといふか英雄は毀誉褒貶の集まる所尊崇と罵詈と交々至る。しかして時に応じ機に臨み執る所の政略殆ど人意の表に出て神智奇謀測るべからざるあり。しかして英雄の出るは概ね国家擾乱の際、数百載の下に立て之を想見す。目眩し胸轟く英雄の人物あにそれ知り易しとせんや。哲士の性情を論ずといふかその胸にはすなはち大慈大悲の霊泉を湛へその腔にはすなはち神妙壮美の世界観を包蔵す。乾坤を覆載し宇宙に徹底し区々の俗情を超絶してしかして悠々として青天の上に飛揚す。雲漢を
抉て彼の帝郷に遊ぶなり。哲士の性情あにそれ議し易からんや。
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【花吹雪】
怒った時には、縄切を振りまわしてエルサレムの宮の商人たちを打擲したほどの人である。決して、色白の、やさ男ではない。やさ男どころか、或る神学者の説に依ると、筋骨たくましく堂々たる偉丈夫だったそうではないか。虫も殺さぬ大慈大悲のお
釈迦さまだって、そのお若い頃、耶輸陀羅姫という美しいお姫さまをお妃に迎えたいばかりに、恋敵の五百人の若者たちと武技をきそい、誰も引く事の出来ない剛弓で、七本の多羅樹と鉄の猪を射貫き、めでたく耶輸陀羅姫をお妃にお迎えなさったとかいう事も聞いている。七本の多羅樹と鉄の猪を射透すとは、まことに驚くべきお力である。
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【春昼】
恋するものは、優柔な御手に縋りもしよう。御胸にも抱かれよう。はた迷える人は、緑の甍、朱の玉垣、金銀の柱、朱欄干、瑪瑙の階、花唐戸。玉楼金殿を空想して、鳳凰の舞う竜の宮居に、牡丹に遊ぶ麒麟を見ながら、獅子王の座に朝日影さす、桜の花を衾として、明月の如き真珠を枕に、勿体なや、御添臥を夢見るかも知れぬ。よしそれとても、
大慈大悲、観世音は咎め給わぬ。
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【出家とその弟子】
まことのこころざしある人は、人のあしきことあらば、わが身のうえに受けてかなしみ、人のよきことあらば、わが身に受けてよろこび、なに事もわれ人へだてなく、あしかれとおもわず、人をそしらず、ねたまず、にくげ言わず、たよりなき人を、言葉のひとつもやわらかに、おとなしやかにひきたてて、少しのものもあいあいにほどこして、人をたすくるこころこそ、大慈大悲のきょうようにて
候え。(涙ぐむ)ほんとに涙がこぼれるような気がします。
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【日本の伝説】
そこから余り遠くない等々力村の万福寺という寺にも、親鸞上人の御箸杉という大木が二本あって、それ故に、また杉の御坊とも呼んでおりましたが、二百年以上も前の火事に、その一本は焼け、残りの一本も後に枯れてしまいました。昔、親鸞がこの寺に来て滞在しいよいよ帰ろうという日に、出立の膳の箸を取って、御堂の庭にさしました。阿弥陀如来の大慈大悲には、枯れた木も花が咲く。われわれ凡夫もそのお救いに洩れぬ証拠は、この通りといってさして行きましたが、果たせるかな、幾日もたたぬうちに、その箸次第に根をさし芽を吹いて、いつしか大木と茂り
秀でたというのであります。(和漢三才図会以下。東山梨郡等々力村)
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【大菩薩峠 壬生と島原の巻】
「有難い地蔵様のお慈悲じゃ、涙もこぼれようわい。我々凡夫の涙は、蜆貝に入れた水ほどのものじゃ、地蔵様の大慈大悲は大海の水よりも、まだまだ広大。それ我々凡夫は、ちょっとしたことにも悲しいの、嬉しいの、すぐ安っぽい涙じゃが、この無仏世界の
衆生の罪障をごらんになる大菩薩の御涙というものは、どのくらいのものか測り知れたものでない。南無延命地蔵大菩薩、おん、かかか、びさんまえい、そわか」
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【宮本武蔵 円明の巻】
「――欣しや、欣しや。ばばの善心を、日頃から憐れと思し給い、この大難へ、仮の御姿して、救いにお降り下されましたか。大慈大悲、南無、
観世音菩薩――南無、観世音菩薩」
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Last updated : 2024/06/28