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男尊女卑
だんそんじょひ
作家
作品

坂口安吾

【天皇陛下にさゝぐる言葉】

日本は男尊女卑だなどゝいうけれども、そうじゃない。金殿玉楼では亭主関白の膳部のかたわらに女房が給仕に侍し、裏長屋ではガラッ八の野郎が女房お梅をふんづける。これが表向きの日本であったが、実は亭主は外へでると自信がないから、せめて女房に威張りかえるほかに仕方がなく、内実は女房の手腕で、ワイロが行きとゞいたり、女房の親父の力でもかりないとラチがあかない有様で、男は女に対して威張っているが、男に実質的なものがなくて、女の流儀に依存しているのが実状であった。

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坂口安吾

【敬語論】

女房をお前とよぶのは男尊女卑の悪習だというが、例がフランスの「お前よび」にある通り必ずしも男尊ではなく親密の表現でもあり、他人行儀と云って他人のうちはテイネイなものだが、友達も親密になると言葉がゾンザイになること、日本も「お前よび」と同断であり、女房をお前とよぶのも、むしろ親しさの表現の要素が多いであろう。

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宮本百合子

【婦人作家は何故道徳家か? そして何故男の美が描けぬか?】

しかもブルジョア社会文化は、いかに表面を種々様々の花束・手套・行儀作法でとりかざろうとも、本質において男尊女卑であり、婦人の性はその特殊性をも十分晴れやかにのばし得る形態において同位ではない。(男七十銭女三十銭の賃銀)それ故進歩的思索を可能とする婦人は、先ず家庭の男(父・夫・兄・その他)に対する不平等の不満から正義派となり、その正義派的不満を唯物論によって武装せず個人的に観念化することにおいて、微妙に道徳感、宗教的世界観と結びつく。

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清水紫琴

【今様夫婦気質】

毎朝の御出勤にも、旦那様の洋杖奥様持ちて送り出たまへば、奥様がお穿きものの注意、旦那様より老媼ばあやに与へらるるほどの御心入り。二三町は御一所に、向ふ横町でお別れの際には、両方から丁寧にお辞儀なさるるとて、男尊女卑の風習に慣れし人達の珍しがり、時刻を計りてわざわざ見物に行くほどの評判も、我に やましきところなければと、お二方は澄ましたもの。

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小林一三

【宝塚生い立ちの記】

こういう訳で、私は若い女性、特に大勢の中から選ばれた美人を数多くみて来た。したがって、私には私なりに女性観もあるが、もともと、私どもの若い時代は、亭主関白、男尊女卑の時代であって、ヘリクツ言うような型の女はとても売れなかった時代だから、そんな古い者の女性観なんて、今の人から見たらおよそ時代遅れの縁遠い話だろうが、私の女性観を言わせてもらうとやっぱり第一に健康でなくてはダメだと思う。

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新渡戸稲造

【平民道】

米国がデモクラシーの国というのは共和政治なるが故ではない、彼らがまだ独立をしない即ち英国王の司配のもとに植民地として社会を構成した時に社会階級や官尊民卑や男尊女卑の如き人格以外の差違を軽んじまた職業によりて上下の区別をなしたり家柄教育を以て人の位附を定める如き事なく人皆平等随って相互に人格を認め相互の説を尊重する習慣があったれば今日米国のデモクラシーが淵源深く基礎が堅いと称するのである

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徳富盧花

【燕尾服着初の記】

群衆の中に立まじりて、玄関に入り来る人々を眺むるに、何れも/\先づ子爵夫人に会釈して然る後主人に会釈す。しくじつたり、吾は何気なく主人を先にしたるが、此処は夜会の場、例の男尊女卑大禁物だいきんもつ、殊に青木子は済まなかつた、と思うても下司げすの智慧はあとで、後悔はさきに立たず。今宵こよひの失策のしめと、独あたまかく/\猶も入り来る人々を眺め居たり。

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岸田國士

【妻の日記】

 封建時代の、仏教乃至儒教の影響を受けた女性観には、多分の非日本的性格と家族制度の末紀的現象を反映した、女性を汚れあるものとし、或は度し難きものとする傾向が見られないことはない。
 女三従説の如きは、趣旨はともかく、表現が寧ろ穏かでないとさへ思はれる。
 事実、男尊女卑は日本の思想ではなく、夫唱婦随の妙諦は、夫の責任と妻の信頼から生れるものであることを、日本の男と女とほど、よくこれを知つてゐるものはないのである。

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中島敦

【李陵】

匈奴きょうどの風習によれば、父が死ぬと、長子たる者が、亡父の妻妾さいしょうのすべてをそのまま引きついでおのが妻妾とするのだが、さすがに生母だけはこの中にはいらない。生みの母に対する尊敬だけは極端に男尊女卑の彼らでも っているのである――今しばらく北方へ隠れていてもらいたい、ほとぼりがさめたころに迎えをるから、とつけ加えた。

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吉川英治

【宮本武蔵 地の巻】

「それは、古代の天竺てんじく国が、日本よりは、もっともっと男尊女卑の国だったからしかたがない。――それから、龍樹 菩薩ぼさつは、女人にむかって、こういうことばを与えている」

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Last updated : 2024/06/28