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大義名分
たいぎめいぶん
作家
作品

島崎藤村

【夜明け前 第一部上】

半蔵が日ごろその人たちのことを想望していた水戸の藤田東湖ふじたとうこ戸田蓬軒とだほうけんなぞも、この大地震の中に巻き込まれた。おそらく水戸ほど当時の青年少年の心を動かしたところはなかったろう。彰考館しょうこうかんの修史、弘道館こうどうかんの学問は言うまでもなく、義公、武公、烈公のような人たちが相続いてその家に生まれた点で。御三家ごさんけの一つと言われるほどの親藩でありながら、大義名分を明らかにした点で。
一庄屋の子としての半蔵から見ると、これは理由のないことでもない。水戸の『大日本史』に、尾張の『類聚日本紀るいじゅうにほんぎ』に、あるいはらい氏の『日本外史』に、大義名分を正そうとした人たちのまいた種が深くもこの国の人々の心にきざして来たのだ。

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坂口安吾

【もう軍備はいらない】

屍体から戦闘帽をもらった火葬係りなどは、明日は自分がその戦闘帽と一しょに吹きとばされてバラバラになるかも知れない無数の迷い子の一人にすぎないのである。彼はまだ生きてたから屍体の戦闘帽をもらっただけのことであろう。戦争とはそういうものなんだ。戦争になってしまえば、そうあるだけのことだ。
 戦争にも正義があるし、大義名分があるというようなことは大ウソである。戦争とは人を殺すだけのことでしかないのである。その人殺しは全然ムダで損だらけの手間にすぎない。

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福沢諭吉

【瘠我慢の説】

世に所謂いわゆる 大義名分たいぎめいぶんより論ずるときは、日本国人はすべて帝室ていしつの臣民にして、その同胞どうほう臣民の間に敵も味方もあるべからずといえども、事の実際は決してしからず。幕府の末年に強藩の士人等が事をげて中央政府に敵し、そのこれに敵するの際に帝室ていしつ名義めいぎを奉じ、

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太宰治

【人間失格】

個人と個人の争いで、しかも、その場の争いで、しかも、その場で勝てばいいのだ、人間は決して人間に服従しない、奴隷でさえ奴隷らしい卑屈なシッペがえしをするものだ、だから、人間にはその場の一本勝負にたよる他、生き伸びる工夫がつかぬのだ、大義名分らしいものを となえていながら、努力の目標は必ず個人、個人を乗り越えてまた個人、世間の難解は、個人の難解、大洋オーシャンは世間でなくて、個人なのだ、と世の中という大海の幻影におびえる事から、多少解放せられて、以前ほど、あれこれと際限の無い心遣いする事なく、謂わば差し当っての必要に応じて、いくぶん図々しく振舞う事を覚えて来たのです。

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菊池寛

【賤ヶ岳合戦】

長秀曰く、子を立てるとしたら此場合、信雄信孝両公のいずれを推すかはすこぶる問題となるから、それより秀吉の言の如く、嫡孫の三法師殿を立てるのが一番大義名分かなって居るように思われる。其上、今度主君のあだを討った功労者は、秀吉である、只今の場合、先ず聴くべきは先君のかたきを打った功労の者の言ではあるまいか、と。

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下村湖人

【次郎物語 第五部】

「むろん、避けられるだけは避けます。無用な摩擦まさつをおこして自分から最悪の事態に落ちこむようなことはしないつもりです。しかし大義名分をみだすようなことにまで、お調子をあわせるわけには行きますまい。」

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黒島伝治

【反戦文学論】

帝国主義××は、何等進歩的意義を持っているものではなく、却って、世界の多数の民族を抑圧すると共に、その自国内に於けるプロレタリアをも抑圧して、賃銀労働の制度を確保し拡大せんがために行われるものである。けれども狡猾なるブルジョアジーは、うまい、美しげな大義名分を振りかざす。欧洲大戦当時、フランスとイギリスのブルジョアジーは、ベルギーと、その他の国民の解放のために戦争を行っていると主張して民衆を欺いた。

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中里介山

【大菩薩峠 京の夢おう坂の夢の巻】

我等は浪人として勤王攘夷を実行せんために、新撰隊に加盟したのだ、いまさら徳川のろくんで、その爪牙そうがとなるわけにはいかぬ、新撰隊そのものが、そういうふうに変化した以上は、我々の隊に留まるべき大義名分は消滅したのだから、脱退して新たなる出処につくことが士の本分である、至急、我々の脱退を認めろ、というのが、これらの者の主張であって、

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吉川英治

【三国志 篇外余録】

私は、それの一因として、劉玄徳以来、蜀軍の戦争目標として唱えて来た所の「漢朝復興」という旗幟きしが、果たして適当であったかどうか。また、中国全土の億民に、いわゆる大義名分として、受け容れられるに足るものであったか否かを疑わざるを得ない。

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Last updated : 2024/06/28