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多情多感
たじょうたかん
作家
作品

紫式部 與謝野晶子訳

【源氏物語 若菜(上)】

素知らぬ顔を大将は作っていたが、自分の見た人を衛門督の目にも見ぬはずはないと思って、その貴女をお気の毒に思った。何ともしがたい恋しく苦しい心の慰めに、大将は猫を招き寄せて、抱き上げるとこの猫にはよい薫香たきものの香がんでいて、かわいい声で鳴くのにもなんとなく見た人に似た感じがするというのも多情多感というものであろう。

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紫式部 與謝野晶子訳

【源氏物語 夕霧一】

どんなに古風な気のきかない男に皆さんは私を思っておられるだろうと恥ずかしく思います。青年で気楽な位置におりましたころから、続いて恋愛を生活の一部にして来ていますれば、こんなに不器用な恋の悩みをしないでも済んだろうと思います。私のように長く心の病気をおさえている人はないでしょう」
 大将はこの言葉のとおりにもう軽々しい多情多感な青年ではない重々しい 風采ふうさいを備えているのであるから、その人の切り出して言ったことがこれであるのを、女房たちはこんなことになるかともかねてあやぶんでいたと、途方に暮れた気がするのであった。

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岡本かの子

【小町の芍薬】

彼は妻に悩んだ男であつた。妻の方からいへば妻を悩ました夫で彼はあつたかも知れない。
 多情多感で天才型のこの学者は魅惑を覚えるものを何でも溺愛する性質であつた。対象に向つて恋愛に近い気持ちで突き進むのであつた。

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岡本かの子

【荘子】

彼は壮年近くなると漸く論争に倦み内省的になり、老子の自然にしたがって消極に拠る説に多く傾いて来た。しかし、六尺豊な体躯を持っている赫顔白髪の老翁の太古の風貌をべる考えと多情多感な詩人肌の彼の考えと到底一致する筈がない。結局荘子は先哲のどの道にも かず、己れの道を模索し始めた。

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ツルゲーネフ 神西清訳

【はつ恋】

それからわたしは、『白き雪にはあらねども』を歌い出したが、それがやがて、そのころはやっていた『そよ風ふけば、われ君を待つ』という歌謡かようにかわり、しばらくするとわたしは大声で、ホミャコーフの悲劇のなかの、星に呼びかけるエルマークの言葉を朗読し出した。そうかと思うとまた、多情多感な一編の詩を作ろうと野心を起して、全編の結句になるべき一行をさえ思いついた。それは、『おお、ジナイーダ! ジナイーダ!』という句だったが、結局ものにならなかった。

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吉川英治

【鳴門秘帖 上方の巻】

帰るに帰られぬ江戸の空。折にふれ時にふれ、思慕の悩みを送る尺八の音は、お千絵様の夢に通うこともあろうけれど、銀五郎はそれを知らなかった。いや、銀五郎のみでなく、多情多感な青年剣客法月弦之丞の心に秘めている人間苦のせつなさを知る人はないのである。

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吉川英治

【上杉謙信】

由来、謙信は多感な質である。激しやすく感じやすい。二十歳ごろまでは、まま女のごとく泣くことすらあった。その前後には、多感なるばかりでなく、多情の面も性格に見られたが、翻然ほんぜん、禅に入って心鍛しんたんをこころざしてから一変した傾きがある。といっても多情多感な性は、もとより持って生れたもの、禅によってそれが血液から くなるはずはないが、その強烈を挙げて、将来の大志へ打ちこめて来たのである。

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Last updated : 2024/06/28