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魑魅魍魎
ちみもうりょう
作家
作品

萩原朔太郎

【夢】

人は夜の夢の中で、樹人や火人であつた頃の、先祖の古い記憶を再現し、いつも我等の生命を脅かして居たところの、妖怪變化の恐ろしい姿や、得體の解らぬ怪獸やの、魑魅魍魎ちみもうりようの大群に取り圍まれて魘されてゐる。人が本能的に闇黒を恐れるのも、それが敵から襲撃されるところの、最も恐ろしく氣味の惡い時であつたからだ。

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泉鏡花

【高野聖】

 まさかに聞いたほどでもあるまいが、それが本当ならば見殺みごろしじゃ、どの道私は出家しゅっけの体、日がれるまでに宿へ着いて屋根の下に寝るにはおよばぬ、追着おッついて引戻してやろう。罷違まかりちごうて旧道を皆歩行あるいてもしゅうはあるまい、こういう時候じゃ、おおかみしゅんでもなく、魑魅魍魎ちみもうりょうしおさきでもない、ままよ、と思うて、見送るとや深切な百姓の姿も見えぬ。

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国枝史郎

【神州纐纈城】

 今日もお山は晴天で、八つの峰が鮮かに見え、肌が瑠璃るりのように輝いていた。そうして裾野には風が渡り、秋草の花がなびいていた。
 いったいどこへ行くのだろう? この時代の裾野と来ては、猛獣毒蛇魑魅魍魎ちみもうりょう剽盗ひょうとう殺人鬼の住家だのに。……どっちを見ても危険でありどこへ行っても安穏はない。……人は老耄ろうもうした老人で、一人は十一二の子供である。

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高村光太郎

【回想録】

その前は谷中にいたが、彼処は墓地で、五重塔の下の芥坂という所は「投込み」といって、東京で首括くびくくりとか身投げなどの身許みもとの分らない者を身寄りの者が出て来るまで仮に埋葬する所であった。浅く埋めてあるから、時々足や手を犬がくわえ出したりしているのが見えたりして、昼間は平気だけれど、夜になると怖かった。丁度南方の土人の生活など今でもそうだろうと思うけれど、夜になると、あらゆる魑魅魍魎ちみもうりょうが一杯になった一種別の世界に入るような気がして、非常に恐ろしかった。子供の時を思うと、何だか世の中が暗かった気がして、一種の暗い世界が頭の中に出て来る。私は子供の時、変な幻想の世界の中に生きていたようであった。

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岡本かの子

【宝永噴火】

この間の修業も並大抵のものではなかったらしい証拠は、ひどい肺病と神経衰弱にかかって命も危うくなり、山城の白河の白幽道人というのから内観の秘法を授かってやっと助かったり、美濃の岩滝の山中に入り一日半掌の米を食として幻覚の魑魅魍魎ちみもうりょうと闘ったり、心理的に幾つも超越の心階を踏み経たことは大悟小悟その数を知らずと後に自身の述懐に就て言っているくらいである。

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小栗虫太郎

【黒死館殺人事件】

「ところが、死霊おばけは算哲ばかりじゃないさ」と検事が応じた。「もう一人ふえたはずだよ。だがディグスビイという男はたいしたものじゃない。たぶん彼奴あいつ魑魅魍魎ポルターガイストだろうぜ」
「どうして、やつは大魔霊デモーネン・ガイストさ」と法水は意外なことばを吐いた。「あの弱音器記号には、中世迷信の形相すさまじい力がこもっているのだよ」

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林不忘

【丹下左膳 こけ猿の巻】

 いつから、どうしてこの部屋の押入れになぞ、人がひそんでいたのだろう?
「わはは、驚いてやがら」
 おもしろそうに笑いながら、あぐらをかいていた押入れの下段から、ノソリと立ち現われた人物を見ると!
 門之丞も、萩乃も、一眼でゾッとしてしまった。
 家ののきも三寸さがるといって、夜は、魑魅魍魎ちみもうりょうの世界だという。
 その真夜中の鬼気が、ここにったとでもいうのでしょうか。
 魔のごとき一個の浪人姿――。

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Last updated : 2024/06/28