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当代無双
とうだいむそう
作家
作品

岡本綺堂

【玉藻の前】

「おお、入道にゅうどうよ。ようぞ見えられた」
 関白忠通卿はいつもの優しい笑顔を見せて、今ここへはいって来たひと癖ありそうな小作こづくりのやせ法師を迎えた。法師は少納言通憲みちのり入道信西しんぜいであった。当代無双の宏才博識として 朝野ちょうやに尊崇されているこのふる入道に対しては、関白も相当の会釈をしなければならなかった。ことに学問を好む忠通は日頃から信西を師匠のようにもうやまっていた。
「きょうは藻という世にもめずらしい乙女がまいる筈じゃ。入道もよい折柄おりからにまいられた。一度対面してその鑑定をたのみ申したい」と、忠通はまた笑った。
「藻という乙女……。それは何者でござるな」と、信西もその険しい眉をやわらげてほほえんだ。

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Last updated : 2024/06/28