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東奔西走
とうほんせいそう
作家
作品

中島敦

【光と風と夢】

十一月××日
 東奔西走、すっかり政治屋に成り果てた。喜劇? 秘密会、密封書、暗夜の急ぎ路。この島の森の中を暗夜に通ると、青白い燐光(りんこう)が点々と地上一面に散り敷かれていて美しい。一種の菌類が発光するのだという。

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坂口安吾

【握った手】

彼女が政治に凝らないのは世のため人のため大助かりだなぞと考えた。ロイド眼鏡と小ジワと読書と冥想と人間観察の代りに、彼女がカバンをかかえて東奔西走 し、あの街角この広場で絶叫する様を想像したのである。政界の大物に惚れたあげく、彼女の胴も政界の大物と同じぐらいみるみるブクブクとふとる光景なぞも 考えた。

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島崎藤村

【夜明け前 第二部下】

実際、あるものをめがけて、まっしぐらに駆けり出そうとするような熱い思いはありながら、家を捨て妻子を顧みるいとまもなしにかつて東奔西走した同門の友人らがすることをもじっとながめたまま、交通要路の激しい務めに一切を我慢して来た彼である。

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岩村透

【不吉の音と学士会院の鐘】

考えてみれば暢気(のんき)な話さ。怪談の目星を打たれる我々も我々であるが、部署を定めて東奔西走も得難いね。生憎(あいにく)持合(もちあわ)せが無いとだけでは美術村の体面に関(かか)わる。一つ始めよう。

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夢野久作

【父杉山茂丸を語る】

 その時はまだ私が生まれていない前だったから、果してこの通りの事を云ったかどうか保証の限りでないが、その後(のち)の父は正しく前述の通りの覚悟で東奔西走していたし、お祖父様やお祖母(ばあ)様も、母までも、その覚悟で、あらん限りの貧乏と闘いつつ留守居していた事を、私は明らかに回想する事が出来る。なつかしい、恨めしい、恐ろしい、ありがたい父であった。

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神西清

【雪の宿り】

尤(もっと)も最初からそれに気が附かなかったのは、貞阿の方にも見落しがある。第一殆(ほとん)ど二年近くも彼は玄浴主に顔を見せずにいた。応仁の乱れが始まって以来の東奔西走で、古い馴染(なじみ)を訪ねる暇もなかったのである。

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木下尚江

【臨終の田中正造】

この県会の決議を待つて、政府は衆議院へ「栃木県災害土木補助費二十二万円」の臨時予算を提出し、議会は無造作にこれを通過した。翁は東奔西走した。けれど翁の『銅山党の奸策』は殆ど全く何処にも反響しなかつた。

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中里介山

【大菩薩峠 慢心和尚の巻】

 ついには、こうして、永久に自分は兄の敵(かたき)を討つことができないで了(おわ)るのかと思いました。そうして、討つことのできない兄の敵を、東奔西走して尋ね廻った自分は、それでけっきょく一生がどうなるのだということをも、考えさせられてしまいました。

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国枝史郎

【大捕物仙人壺】

武術は島田虎之助に学び、蘭学は永井青涯に師事し、一世を空(むなし)うする英雄であったが、慶喜に一切を任せられるに及び、大久保一翁、山岡鐡舟などと、東奔西走心胆を砕き、一方旗本の暴挙を訓め、他方官軍の江戸攻撃を食(く)い止めようと努力した。

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Last updated : 2024/06/28