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雲中白鶴
うんちゅうはっかく
作家
作品

太宰治

【令嬢アユ】

佐野君はの頃いよいよ本気に、小説家になるより他は無い、と覚悟を固めて来た様子である。日、一日と落第が確定的になって来たのかも知れない。もうこうなれば、小説家になるより他は無い、と今は冗談でなく腹をきめたせいか、此の頃の佐野君の日常生活は、実に悠々たるものである。かれは未だ二十二歳のはずであるが、その、本郷の下宿屋の一室にいて、端然と正座し、囲碁のひとり稽古にふけっている有様を望見するに、どこやら雲中白鶴の趣さえ感ぜられる。時々、背広服を着て旅に出る。かばんには原稿用紙とペン、インク、悪の華、新約聖書、戦争と平和第一巻、その他がいれられて在る。

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Last updated : 2024/06/28