ものの数え方・助数詞
《 コラム - ちょっと知識 》
貞丈雑記ていじょうざっき』より「物数の部」
= 貞丈雑記に見るものの数・テキスト版 =

貞丈雑記ていじょうざっき』は、江戸時代中期の旗本(幕臣)・伊勢流有職故実研究家、伊勢貞丈いせさだたけ (享保2年12月28日〈1718年1月29日〉- 天明4年5月28日〈1784年7月15日〉)が、子孫への古書案内、故実研究の参考書として、宝暦13年〈1763年〉から亡くなるまでの22年間にわたり、武家の有職に関する事項を36部門に分けて記したもの。伊勢貞友、岡田光大らが校訂して天保14年〈1843年〉に刊行された有職故実書。
その中に、ものの数え方に使われる助数詞や数について解説した部分がある。
礼法の部、祝儀の部、人品の部、人物の部、人名の部、小袖類の部、烏帽子の部、役名の部、官位の部、装束類の部、飲食の部、膳部の部、酒盃の部、輿類の部、調度の部、書礼の部、進物類の部、弓矢の部、武具の部、刀剣の部、武芸の部、馬の部、馬具の部、家作の部、座鋪(ざしき)飾の部、鳥目類の部、鷹類の部、物数の部、紙類の部、皮類の部、言語の部、神仏頼の部、諸結の部、凶事の部、雑事の部、書籍の部
ここでは、『貞丈雑記』の中から、「物数の部」とした「ものの数」について記した部分を見てみる。
  • 底本:国文学研究資料館蔵版   
  • 旧字体・歴史的仮名遣いは、基本的に新字体・現代仮名遣いとし、適宜、句読点、振り仮名を補うなどした。また、語句の意を取りやすくするために、適宜、括弧や中黒を補うなどした。
  • 片仮名は、基本的に平仮名とした。
  • 原本の中での引用部分は基本的に原本のままとした。
 テキスト版  
祝儀 七五三の数用うる事

祝儀に七五三の数を用うる事、一・三・五・七・九を陽数という。二・四・六・八・十を陰数という。陽は、物を生じ成長せしむる気なり。陰は、物をかがめからす気なり。これに依りて祝儀には陽数を用うるなり。賜数の内にても、初の一と終の九を捨てて中の七五三ばかり用うるは、陽気のさかんなる所を取り用うる心なり。物の初はよわし、終はおとろうる。これに依り初の一と終の九を除くなり。

〔頭書〕天地の間の気の、のびる気を陽という。かがまる気を陰という。はり出す気を陽という。ひき入るる気を陰と云う。
神道 八の数の事
神道に、八の数を以て数多き儀とする事。一より十までの内、初の二と終の十とを捨てて、残る数八つなり。始もなく終もなく、かぎりなき心なり。八百万・八千代・八雲などの「八」の字、皆限りなく数多き儀なり。
折一合と云う事
折一合と云うはニつの事なり、と心得たる人有り。あやまりなり。一つの事なり。すべて箱物をば、一合・ニ合と云うなり。唐櫃なども一合・ニ合と云い、一つ・ニつの事なり。「合」は「盒」の略字なり。盒は「はこ」と云う字なり。
一具と云う事
一具と云うは、何にてもついに揃いたる物を云う。ゆがけ・行縢むかばき・すおう袴・肩衣はかまなどの類は、一具と云う。
銚子をば一枝と云う事
銚子ちょうしをば、一えだ・ニ枝と云うなり。『条々聞書』にあり。
鞍ーロ、轡一口
くら一口、くつわ 一口とあるを、「ひとくち」とよむはあしし。「いっく」とよむぺし。上古の書には、太刀の事をも一ロ・ニロとあり。又、鐘一口、鈴一口などとも有り。何れも「いっく」とよむなり。
鎧一領と云う事
鎧は一領と云う。鎧にかぎらず小袖をも、一領と云うなり。「領」は「えり」とよむ字なり。えりの付きたるものは皆、一領と云うなり。
冑一刎
かぶと一刎ひとはね と云うは、敵の冑を云う詞なり。『武雑書札篇』に云う、「胄一刎。はねと云字、きると云聞、忌也云々」。刎の字は、首を刎るの字なり。これに依り、身方の胄をば、一刎と云う事をいみて「一頂」というなり。頂は、いただくと云う字なり。貞衡の説なり。世に一頂という事を知らぬ人多し。
〔頭書〕『節用集』「胄一刎。此字也」。
参考『節用集』(国立国会図書館) 
『節用集』より「胄一刎」
(慶長16年〈1611年〉)
[国立国会図書館蔵]
鮭一尺 1
さけ にかぎりて一尺・ニ尺と云うにあらず。『大草殿相伝聞書』に「鱈一しやく」とあり。一尺・ニ尺と云ういわれ、つまびらかならず。一尺以上の魚の大きなるをば、一尺・ニ尺というか。
鮭一尺 2
又云う。鮭を一尺・ニ尺というは、一しゃくの音をかりて云うなるべし、と云う説あり。 「隻」の字は「かたかた」とよむ字にて、一隻というは、一つの事なり。鮭にかぎりて一隻というわけもなし。何にても一つの事をば一隻というべき事なれば、この説も用いがたし。按ずるに、前にも記す如く、大草流の書には鱈をも一尺といえり。鮭も、鱈も、奥州より出る魚なり。かの国の詞にて、すべて魚を一尺・ニ尺といい習わして、鮭・鱈を他国へ送るにも、一尺・ニ尺といいてつかわしたる故、他国にても、その詞をうけて、一尺・ニ尺といい習わしたるなるべし。本は昔、奥州の国詞より出し事なるべし。
〔頭書〕『殿中日々記』云う〈十二月五日〉、「奉公山田ふり一尺云々」。「奉公山田」とは、奉行方を奉公衆と云い、山田は氏なり。『応仁別記』云う、「雑掌船に鮓と云魚一尺計なるが飛入けり。疎忽なる者取て海へ投入ければ、暫有て鱸一尺飛入ぬ云々」。これを見れば、鮭・鱈にも限らず、一尺と云うなり。
  • ※「一隻」の振り仮名について、原本では「シヤウ」とされており、これを現代仮名遣いにすれば「しょう」となり、そのように表記する文献も見られるが、この一文では鮭を「しゃく」と数えることを扱っており、その意からすれば「シヤク」の誤記ではないかとも思われるため、ここでは「しゃく」と表記した。
  • ※ 国立国会図書館が所蔵する「古事類苑」(明治43年〈1910〉神宮司庁編)では、「一シャク」としている。〔国立国会図書館蔵「古事類苑」  
  • ※なお、この項について「古事類苑」には、『 ○按ずるに、鮭条引く所の宇治拾遺物語に既に鮭一二尺の文あり』との一文が添えられている。(「宇治拾遺物語」は、建暦2年〈1212年〉~承久3年〈1221年〉頃の成立とされる)
弓に一ちから・ニちから
弓に一ちから・ニちからと云う事、弓のけずりくずを両手にてほこほことにぎりて、一握を一ちからと云うなり。『弓馬秘説』『書札雑々聞書』にあり。
弓を一ふくら・ニふくらと云う事
弓を一ふくら・ニふくらと云う事、一杖・ニ杖と云なり、と『小笠原殿聞書』にこれ在り、と『用害記』に見えたり。一ふくらと云うは、はずし弓にて射場・馬場などの間数をうつ時、弓ずえ一杖と云う事を、一ふくらとも云うなり。
〔頭書〕一ふくらの事、『軍陣聞書』に「一ふくらとは、弓一張の事也。二ふくらと云は、二張の事也」とあり。これは弓杖を打つ時の事なり。
たかばかり
「たかばかり」「おのがたかばかり」「かねの定め」などと云う事、調度の部にしるす。

《調度の部》【たかばかり】たかばかりと云うは、竹の物さしなり。「御服ごふくさし」とも云い、曲尺の一尺二寸五分なり。たかばかりの「たか」は竹なり。「け」と「か」と五音通ずるなり。竹箒たけぼうき「たかぼうき」と云うに同じ心なり。「竹尺」と書きて「たかばかり」とよむなり。今はくじらのひげにて作りたるも、昔は竹にて作る。今も竹にてしたるもあり。或説に、「鷹尺たかばかり」と書きて、鷹、空より地にりたる鳥を見て飛びくだる時、地より上、かねざし一尺二寸の所まで飛びくだる物なり。これに依り「たかばかり」となり云々。この説用ゆぺからず。鷹、地へとび下る時、物さしを持ちて出て寸尺をさして見たる者はあるまじきなり。鷹という事に付きていうはあやまりなり。

〔頭書〕『和名抄』に「竹量」の字を「たかはかり」とあり。
物の寸尺を定むる事
物の寸尺を定むるに、吉事に陽数を用うべし。凶事には陰数を用うべし。陽数は一・三・五・七・九なり。陰数は二・四・六・八・十なり。又吉事とは、たとえば二丈四尺にてよき物も、これを陰数なる間、一寸か、又一分か、三分も余計にすべきなり。これ、陽数を用うる心なり。凶事にたとえば、三丈五尺にてよき物も、これは陽数なる間、二寸か、又二分、四分も余計をすべし。これ、険数を用うる心なり。陰陽の数をわけて用うるは、吉凶を分かつ為なり。吉凶を分くるは礼なり。
酒一献・ニ献
酒一献・ニ献、一度・ニ度と云う事、酒盃の部に記す。
酒盃の部》【の事 1】一こん、二こんと云うを一はい・ニ盃の事と心得たる人、あやまりなり。何にても吸物・肴などを出して盃うを出すは、一こんなり。次に又吸物にても肴にても出して盃を出す、これ二こんなり。何こんもかくの如きなり。一こん終れば、その度ごとに銚子を入れて、一献毎に銚子ちょうしをあらためて出すなり。何こんもこの通りなり。
酒盃の部》【の事 2】洒を一盃・ニ盃と云うは、今時の人の詞なり。古は一度・ニ度といいしなり。かわらけに二度入・五度入などと云うも、二盃入・五盃入と云う意なり。
弦一条
弓の弦は一条・ニ条と云い、又一筋・ニ筋とも云う。一張と云うは、七筋を云う。一桶とは廿一筋なり。桶と云うは、わげ物なり。一つのわげ物に廿一筋入れて進上するなり。替弦を上古は副弦とも設弦もうけつるとも云う。
〔頭書〕『節用集』云う。「弦廿一筋日―桶、七筋日一張、―ヲバ日一節也」と見ゆ。
うつぼ一つ・ニ
うつぼをば一つ・ニつと云うべし。一ほ・ニほとは云わず。
蟇目一腰
蟇目ひきめ 一腰と云うは、四つの事なり。犬追物の時の事なり。常に云うべからず。一束とは、廿の事なり。廿一以上は、廿ニ・廿三などいう。又異説に、一束とは四十の事なり、一把とは廿一の事なり。これ仁田右馬助の説なり。『射手方聞書』に見えたり。この説用いがたし。
矢二筋を一手と云う事
矢二すじを一手と云う事は、的矢にかぎりたる事なり。外の矢をば一手・ニ手とはいうまじきなり。一つ・ニつ、一すじ・ニすじと云うぺし。但し一手四目・一手神頭などとは、一手こしらえたるなれば、一手というべし。
物の数の云い様
物の数の云い様、『武雑書札』『道照愚草』に品々あり。これを略す。
保侶をぱ一領と云う
保侶ほろ衣をぱ一領・ニ領と云う。「保侶衣一千領」と『三代実録』に有り。
巻数をぱ一枝と云う
巻数かんじゅをば一枝・ニ枝と云うなり〈巻数は祈祷の札なり。木の枝に付くるなり〉。又一えだとも書くなり。
御祓をば一合と云う
御祓みそぎ をば一合・ニ合と云うなり〈すぺて箱に入りたる物は、一合・ニ合というなり〉。右両条、『伊勢守書札案』に見えたり〈大永五年の古案文なり〉。
烏の数の事
烏の数をひと羽・ふた羽と云う事、鵜の羽に限りたる事なり、外の烏にいうべからず、と云う説あり〈外の烏は、いちわ・にわというなり〉。
銚子の事
銚子ちょうしをば、一えだ・ニ枝と云い、ひさげをぱ一ロ・ニロと云うぺし。又銚子をも一ロ・ニロともいうぺし。
小袖の事
小袖一重と云う事、小袖の部にしるす。

《小袖類の部》【小袖一重ねと云う事】小袖一かさ ねと云うは、小袖二つの事なり。但し小袖の袖を通して重ぬるにはあらず、ニつの小袖を別々にたたみてつみ重ぬるを云うなり。『酌井記』に云う、「小袖を人に出す事。〈中略〉小袖ばかりはいくつ有共かさねずして同やうにたたむべし」。又「書札并雑々聞書』云う、「小袖一重と云に袷は不入候。ただ小袖二の事也。小袖はいくつもめいめいに重ねられ候云々」。めいめいに重ねられ候とは、ーつずつたたみてつみ重ぬるを云うなり。又『酌井記』に「袷あらば重ねたるが能也」、『条々聞書』に「あはせの重りたるはニツにてはあるまじく候云々」。袷ある時は袷を小袖の内に袖を通し重ぬるなり。衿は小袖幾重と云う数には入らぬなり。一重と云うは小袖ニつ積み重ぬるなり。

屏風の事
屏風びょうぶかたかたを一ひらと云い〈『源氏』あづまやにあり〉、又一隻と云う〈一よろいとは一双なり〉。
えぼしの事
えぼしは一頭と云うなり。『人唐記』に一頭と有り。一頂とも書くぺし。
箙の事
えびらをぱ、一こし・ニ腰と云う。『保元物語』に見えたり。
墨・蝋燭の事
墨又は蝋燭の類を、一挺・ニ挺と云う事は、「挺」の字は「つえ」とよむ字なり。墨も、ろうそくも、杖のごとく細長き物ゆえ、一挺・ニ挺と云うなり。何にてもほそ長き物を、一挺・ニ挺と云うは、皆同じ心なり。一丁・ニ丁と書くは、挺の字むつかしきゆえ略して、「挺」の字の代りに「丁」の字を仮りに用うるなり。
  • ※「蝋燭」の字について、原本では「臘燭」としているが、ここでは「蝋燭」とした。
輿一丁と云う事
輿こしなどを一丁・ニ丁と云うは、「丁」の字「あたる」とよむ字にて、一人あて・ニ人あてと云う心なり。一人まえ・ニ人まえと云うに同じ。
布絹などの事
布絹ぬのきぬなどの類、一疋を一匹とも書くなり。又一むら・ニむらともいうなり。『宇治拾遺物語』〈巻七〉「布一むらとりいでて、これあの男にとらせよ〈中略〉此布一むらとらせたれば、男おもはずなる所得したりと思ひて云々」。『日本紀』に〈孝徳天皇大化二年紀〉「田―町絹一丈四尺(町)成ムラ云々」。この「疋」の字「むら」とよむなり。
綿幾屯と云う事
綿幾屯わたいくどん と云い、「屯」の字「あつむる」と云う心なり。「軍陣の人数を屯する」と云うも、人数を集むるを云うなり。綿一屯の時は「ひともち」と説むなり。『倭名抄』に「唐令云。緜六両屯。屯聚也。俗一屯 疋度毛遅ヒトモチ」。
昼夜の時の数を打つ事
昼夜の時の数を打つ事、昼六時、夜六時なり。子の時を第一とし、丑の時を第二とし、寅の時を第三とし、卯の時を第四とし、辰の時を第五とし、巳の時を第六とす。これ陽の時なり。午の時を第一とし、未の時を第二とし、申の時を第三とし、西の時を第四とし、戌の時を第五とし、亥の時を第六とす。これ陰の時なり。時の数を打つには、一時を十の数に定めて、第一の時をば、一をうたずして残り九つを打つなり〈子の時・午の時〉。第二の時をば、二をば打たずして残り八つを打つなり〈巳の時・未の時〉。第三の時をば、三を打たずして残り七つ打つなり〈卯の時・酉の時〉。第五の時をば、五を打たずして残り五つをうつなり〈辰の時・戌の時〉。第六の時をば、六をうたずして残り四つをうつなり。皆これ第一・第二の次第の数を打たず、その残りの数をうつと心得ぺし。
屏風一よろい
屏風一よろいとは、一双の事なり〈一ひらとは、かたかたの事なり〉。手箱一よろい〈『栄花物語』にあり〉、みずし二よろい〈『源氏物語』〉皆一対〈ニつなり〉の事なり。『日本紀』に「一具」の字を「一よろい」とよませたり。物の具足したるを「よろい」と云うなり。鎧を「よろい」と云うも、小道具までそろい具したる心なり。
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Last updated : 2023/06/03