作 家
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作 品
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紫式部 與謝野晶子 訳 |
【源氏物語行幸】 青鈍(あおにび)色の細長、落栗(おちぐり)色とか何とかいって昔の女が珍重した色合いの袴(はかま)一具、紫が白けて見える霰地(あられじ)の小袿(こうちぎ)、これをよい衣裳箱に入れて、たいそうな包み方もして玉鬘(たまかずら)へ贈って来た。 |
芥川龍之介 |
【木曾義仲論 (東京府立第三中学校学友会誌)】 彼等の脳裡には、入道相国も一具の骸骨のみ。平門の画眉涅歯も唯是瓦鶏土犬のみ。西八条の碧瓦丹檐も、亦丘山池沢のみ。要言すれば、社会の直覚的本能は、既に平氏政府の亡滅を認めたり。 |
泉鏡花 |
【絵本の春】 荒れた寂しい庭を誘って、その祠(ほこら)の扉を開けて、燈明の影に、絵で知った鎧(よろい)びつのような一具の中から、一冊の草双紙を。 |
岡本綺堂 |
【中国怪奇小説集白猿伝・其他】 それは生きている物が動くように聞えたので、趙は起きかえって隙間から窺うと、あるじの三娘子は或るうつわを取り出して、それを蝋燭の火に照らし視た。さらに手箱のうちから一具の鋤鍬(すきくわ)と、一頭の木牛(ぼくぎゅう)と、一個の木人(ぼくじん)とを取り出した。牛も人も六、七寸ぐらいの木彫り細工である。それらを竈(かまど)の前に置いて水をふくんで吹きかけると、木人は木馬を牽き、鋤鍬をもって牀(ゆか)の前の狭い地面を耕し始めた。 |
夢野久作 |
【白くれない】 早や数百金にもなりつらむと思ふ頃、その中より数枚を取り出し、丸山の妓楼に上り、心利きたる幇間に頼みて、彼(か)の香煙の器械一具と薬の数箱を価貴(たか)く買入れぬ。 |
作者不詳 国民文庫 (明治44年) |
【義経記】 忠信是を聞きて、敵に焼き殺されて有りと言はれんずるは、念も無き事なり。手づから焼け死にけると言はれんと思ひて、屏風一具に火を付けて、天井へなげ上げたり。 |
作者不詳 国民文庫 (明治43年) 校訂: 古谷知新 |
【源平盛衰記】 同帝御宇八月十七日、八幡行幸有て、臨時の御神楽有べかりけるに、人長付生が淀河に落入て、ぬれ鼠の如くにして、片方に隠居て御神楽に参らず。理也、只一具持たりつる装束は水に落してぬらしぬ。 |
作者不詳 国民文庫 (明治43年) 校訂: 古谷知新 |
【源平盛衰記】 其上大名三十人に仰て、一人別の結構には、鞍置馬裸馬各一匹、長櫃一合、其中には宿物一領、小袖十領、直垂五具、絹十匹入べし、此外不可過分と被下知ければ、三十人面々に我おとらじと、馬は六鈴沛艾を撰び、鞍は金銀を鏤たりけれ共、下らざりければ、是も面々に本意なき事にぞ思ひ申ける。 |