作 家
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作 品
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有島武郎 |
【一房の葡萄】 「そんなら又あげましょうね。」 そういって、先生は真白(まっしろ)なリンネルの着物につつまれた体(からだ)を窓からのび出させて、葡萄の一房をもぎ取って、真白(まっしろ)い左の手の上に粉のふいた紫色の房を乗せて、細長い銀色の鋏(はさみ)で真中(まんなか)からぷつりと二つに切って、ジムと僕とに下さいました。 |
太宰治 |
【思ひ出】 私は脊が高かつたから、踏臺なしに、ぱちんぱちんと植木鋏で葡萄のふさを摘んだ。そして、いちいちそれをみよへ手渡した。みよはその一房一房の朝露を白いエプロンで手早く拭きとつて、下の籠にいれた。私たちはひとことも語らなかつた。永い時間のやうに思はれた。そのうちに私はだんだん怒りつぽくなつた。葡萄がやつと籠いつぱいにならうとするころ、みよは、私の渡す一房へ差し伸べて寄こした片手を、ぴくつとひつこめた。私は、葡萄をみよの方へおしつけ、おい、と呼んで舌打した |
水野仙子 |
【夜の浪】 藻の一房のたゞよひも、杭一本の漂着も、たゞ人間の考に依つて意義をつけられるのであつた。おゝ大自然よ! |
中島敦 |
【虎狩】 趙はその時、持って来た鞄(かばん)の中からバナナを一房取出して私にも分けてくれた。 |