作 家
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作 品
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辻潤 |
【ふもれすく】 僕はひたすら自分のことにのみ没頭していた。僕が一管の尺八を携えて流浪の旅に出たなどと噂されたのもその時分の事だった。 |
中里介山 |
【大菩薩峠 めいろの巻】 この人のことだから、それは問うまでもなく、手慣れの業物(わざもの)と思うと案外、その黒い袋入りの一品を手にとって、クルクルと打紐(うちひも)を解いて取り出したのは、尋常一様の一管の尺八でありました。 |
泉鏡花 |
【貝の穴に河童の居る事】 姫は、赤地錦の帯脇に、おなじ袋の緒をしめて、守刀(まもりがたな)と見参らせたは、あらず、一管の玉の笛を、すっとぬいて、丹花の唇、斜めに氷柱(つらら)を含んで、涼しく、気高く、歌口を−− 木菟(みみずく)が、ぽう、と鳴く。 社の格子が颯(さっ)と開くと、白兎が一羽、太鼓を、抱くようにして、腹をゆすって笑いながら、撥音(ばちおと)を低く、かすめて打った。 |
宮本百合子 |
【戦争はわたしたちからすべてを奪う】 放浪の詩情こそ、そのひとの文学の一管の笛である、という抒情的評価をかち得ているある作家は、日本の小市民の生活につきまとううらぶれとあてどない人生への郷愁の上に財をつんだ。 |