作 家
|
作 品
|
夏目漱石 |
【趣味の遺伝】 予期出来ん咄嗟(とっさ)の働きに分別が出るものなら人間の歴史は無事なものである。余の万歳は余の支配権以外に超然として止(と)まったと云わねばならぬ。万歳がとまると共に胸の中(うち)に名状しがたい波動が込み上げて来て、両眼から二雫(ふたしずく)ばかり涙が落ちた。 |
泉鏡花 |
【婦系図】 ところが、差当り、今目の前に、貴女の一雫(ひとしずく)の涙を頂かないと、死んでも死に切れない、あわれな者があるんです。 |
泉鏡花 |
【貝の穴に河童の居る事
】 −−塩を入れると飛上るんですってねと、娘の目が、穴の上へ、ふたになって、熟(じっ)と覗(のぞ)く。河童だい、あかんべい、とやった処が、でしゅ……覗いた瞳の美しさ、その麗(うららか)さは、月宮殿の池ほどござり、睫(まつげ)が柳の小波(さざなみ)に、岸を縫って、靡(なび)くでしゅが。−−ただ一雫(ひとしずく)の露となって、逆(さかさ)に落ちて吸わりょうと、蕩然(とろり)とすると、痛い、疼(いた)い、痛い、疼いッ。肩のつけもとを棒切(ぼうぎれ)で、砂越しに突挫(つきくじ)いた。」 |
泉鏡太郎 |
【人魚の祠】 一體(いつたい)、水(みづ)と云(い)ふものは、一雫(ひとしづく)の中(なか)にも河童(かつぱ)が一個(ひとつ)居(ゐ)て住(す)むと云(い)ふ國(くに)が有(あ)りますくらゐ、氣心(きごころ)の知(し)れないものです。 |