作 家
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作 品
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泉鏡花 |
【七宝の柱】 この柱が、須弥壇(しゅみだん)の四隅(しぐう)にある、まことに天上の柱である。須弥壇は四座(しざ)あって、壇上には弥陀(みだ)、観音(かんおん)、勢至(せいし)の三尊(さんぞん)、二天(にてん)、六地蔵(ろくじぞう)が安置され、壇の中は、真中に清衡(きよひら)、左に基衡(もとひら)、右に秀衡(ひでひら)の棺(かん)が納まり、ここに、各一口(ひとふり)の剣(つるぎ)を抱(いだ)き、鎮守府将軍(ちんじゅふしょうぐん)の印(いん)を帯び、錦袍(きんぽう)に包まれた、三つの屍(しかばね)がまだそのままに横(よこた)わっているそうである。 |
芥川龍之介 |
【仙人】 入口の石段を、二三級上(のぼ)ると、扉が開いているので、中が見える。中は思ったよりも、まだ狭い。正面には、一尊(いっそん)の金甲山神が、蜘蛛(くも)の巣にとざされながら、ぼんやり日の暮を待っている。その右には、判官(はんがん)が一体、これは、誰に悪戯(いたずら)をされたのだか、首がない。左には、小鬼が一体、緑面朱髪で、獰(そうどう)な顔をしているが、これも生憎(あいにく)、鼻が虧(か)けている。その前の、埃のつもった床に、積重ねてあるのは、紙銭(しせん)であろう。これは、うす暗い中に、金紙や銀紙が、覚束(おぼつか)なく光っているので、知れたのである。 |
内藤湖南 |
【寧樂】 曇徴の筆と傳へし壁畫も、天智の世としては異人の作なるべし、博物館なる櫻井香雲氏の摸本にて髣髴を得たりしとは、又一しほの心地ぞする。堂内玉蟲厨子の扉に繪ける佛畫はまことに推古の世のものなるべし。藥師三尊、釋迦佛、金銅にて鳥佛師作のよし、所謂法隆寺式にて法輪寺金堂のもの同じさまなり、 |