作 家
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作 品
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紫式部 與謝野晶子 訳 |
【源氏物語 桐壺】 意匠を凝らせた贈り物などする場合でなかったから、故人の形見ということにして、唐衣(からぎぬ)と裳(も)の一揃(ひとそろ)えに、髪上げの用具のはいった箱を添えて贈った。 |
有島武郎 |
【クララの出家】 クララは床から下り立つと昨日堂母(ドーモ)に着て行ったベネチヤの白絹を着ようとした。それは花嫁にふさわしい色だった。しかし見ると大椅子の上に昨夜母の持って来てくれた外(ほか)の衣裳が置いてあった。それはクララが好んで来た藤紫の一揃(ひとそろい)だった。神聖月曜日にも聖(サン)ルフィノ寺院で式があるから、昨日のものとは違った服装をさせようという母の心尽しがすぐ知れた。 |
有島武郎 |
【或(あ)る女(前編)】 母は空々(そらぞら)しく気の毒だとかすまないとかいい続けながら錠をおろした箪笥(たんす)を一々あけさせて、いろいろと勝手に好みをいった末に、りゅうとした一揃(ひとそろ)えを借る事にして、それから葉子の衣類までをとやかくいいながら去りがてにいじくり回した。 |
有島武郎 |
【或(あ)る女(後編)】 有り合わせのものの中からできるだけ地味(じみ)な一そろいを選んでそれを着ると葉子はすぐ越後屋(えちごや)に車を走らせた。 |
土田杏村 |
【私の書斎】 私は着物などは何でもよいと思つてゐる。洋服は一揃ひだけ持つてゐるけれど、和服となると常着だけしかない。その洋服も近頃は大抵は着ずに冬も夏も一着のルパシュカだけ着てゐる。これは実に便利な着物だ。上からスポリとかぶるだけで世話はなく、冬はシャツを何枚も重ねればよい。 |
太宰治 |
【虚構の春
】 「拝復。君ガ自重ト自愛トヲ祈ル。高邁(こうまい)ノ精神ヲ喚起シ兄ガ天稟(てんぴん)ノ才能ヲ完成スルハ君ガ天ト人トヨリ賦与サレタル天職ナルヲ自覚サレヨ。徒(いたず)ラニ夢ニ悲泣スル勿(なか)レ。努メテ厳粛ナル五十枚ヲ完成サレヨ。金五百円ハヤガテ君ガモノタルベシトゾ。八拾円ニテ、マント新調、二百円ニテ衣服ト袴(はかま)ト白足袋(たび)ト一揃イ御新調ノ由、二百八拾円ノ豪華版ノ御慶客。早朝、門ニ立チテオ待チ申シテイマス。太宰治様。深沢太郎。」 |
太宰治 |
【薄明】 私からそれを言い出したのであったが、とにかく一家はそのつもりになって、穴を掘って食料を埋めたり、また鍋(なべ)釜(かま)茶碗(ちゃわん)の類を一揃(そろい)、それから傘(かさ)や履物(はきもの)や化粧品や鏡や、針や糸や、とにかく家が丸焼けになっても浅間(あさま)しい真似(まね)をせずともすむように、最少限度の必需品を土の中に埋めて置く事にした。 |