作 家
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作 品
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幸田露伴 |
【雪たたき】 眼の中より青白い火が飛んで出たかと思われた。主人は訳はわからぬが、其一閃(いっせん)の光に射られて、おのずと吾(わ)が眼を閉じて了った。 |
尾崎紅葉 |
【金色夜叉】 聴ゐる貫一は露の 晨(あした)の草の如く仰ぎ 視(み)ず。語り 訖(をは)れども猶仰ぎ視ず、 如何(いか)にと問るるにも仰ぎ視ざるなりけり。 忽(たちま)ち 一閃(いつせん)の光ありて焼跡を貫く道の 畔(ほとり)を照しけるが、その 燈(ともしび)の 此方(こなた)に向ひて 近(ちかづ)くは、巡査の 見尤(みとが)めて 寄来(よりく)るなり。 |
芥川龍之介 |
【偸盗】 老人は、汗にぬれたはげ頭を仰向(あおむ)けて、上目に太郎を見上げながら、口角に泡(あわ)をためて、こう叫んだ。太郎は、はっと思った。殺すなら、今だという気が、心頭をかすめて、一閃(いっせん)する。彼は思わず、ひざに力を入れながら、太刀(たち)の柄(つか)を握りしめて、老人の頸(うなじ)のあたりをじっと見た。 |
國木田独歩 |
【空知川の岸辺】 若し夫(そ)れ天高く澄みて秋晴(しうせい)拭ふが如き日であつたならば余が鬱屈も大にくつろぎを得たらうけれど、雲は益々低く垂れ林は霧に包まれ何処(どこ)を見ても、光一閃だもないので余は殆ど堪ゆべからざる憂愁に沈んだのである。 |
北村透谷 |
【心機妙変を論ず】 もし夫れ悪の善に変じ、善の悪に転じ、悪の外被に隠れたる至善の躍り出で、善の皮肉に蔵(かく)れたる至悪の跳(は)ね起るが如き電光一閃の妙変に至りては、極めて趣致あるところ、極めて観易からざるところ、達士も往々この境に惑ふ。 |
泉鏡花 |
【海城発電】 この時までも目を放たで直立したりし黒衣の人は、濶歩(かっぽ)坐中に動(ゆる)ぎ出(いで)て、燈火を仰ぎ李花に俯(ふ)して、厳然として椅子に凭(よ)り、卓子(ていぶる)に片肱(かたひじ)附きて、眼光一閃(いっせん)鉛筆の尖(さき)を透(すか)し見つ。 |
石川啄木 |
【雲は天才である】 『デモ、さういふ事でしたつけね、古山さん、先刻(さつき)の御話では。』と再び隣席の首座訓導をかへり見る。 古山の顔には、またしても迷惑の雲が懸つた。矢張り黙つた儘で、一閃(いつせん)の偸視(ゆし)を自分に注いで、煙を鼻からフウと出す。 |
直木三十五 |
【南国太平記】 「ええっ」 その刹那、天童の手から、迸(ほとばし)り出た刃光一閃、小太郎の脇へ、入るか、入らぬか、八郎太が 「危いっ」 と、絶叫した時、天童は、たたっ、とよろめくと、刀を杖にして踏み止まったし、小太郎は、熊笹の中へ転がって、天童の胸へ刀をつけていた。 |
下村千秋 |
【泥の雨】 やがて大粒の雨が四邊の樹の葉を打つてポツリポツリ降つて來た。つゞいて二閃三閃の雷光と共に大地を叩くやうな雷鳴がした。そしてものの一丁と歩かないうちに、大粒の雨は黒い棒のやうになつて一分の隙間もなく降り注いで來た。土の香がそこらに漂つた。 |
佐藤紅緑 |
【少年連盟】 船は一上一下、奈落(ならく)の底にしずむかと思えばまた九天にゆりあげられる、嵐(あらし)はますますふきつのり、雷鳴(らいめい)すさまじくとどろいていなづまは雲をつんざくごとに毒蛇(どくじゃ)の舌のごとくひらめく。この一閃(せん)々々(せん)の光の下に、必死(ひっし)となってかじをとりつつある、四人の少年の顔が見える。 |
佐々木味津三 |
【旗本退屈男 第二話 続旗本退屈男】 しゅッと一閃(せん)、細身の銀蛇(ぎんだ)が月光のもとに閃めき返るや一緒で、すでにもう怪しの男の頤先(あごさき)に、ぐいと短く抉(えぐ)った刀疵が、たらたら生血(なまち)を噴きつつきざまれていたので、 「痛えッ、疑ぐり深けえ殿様だな」 |
国枝史郎 |
【柳営秘録かつえ蔵】 「うらやましいな。……駈落か、……よし、行くがいい、早く行け……」 「はい、はい、有難う存じます」 男女は泥濘へ額をつけた。刀の鞘走る音がした。蒼白い光が一閃した。 「むっ」という男の息詰った悲鳴、続いて重い鈍い物が、泥濘へ落ちる音がした。男の首が落ちたのであった。 |
Last updated : 2024/06/28