作 家
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作 品
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正岡子規 |
【かけはしの記】 兎に角と雨になぶられながら行き/\て桟橋に著きたり。見る目危き両岸の岩ほ数十丈の高さに劉(き)りなしたるさま一雙の屏風を押し立てたるが如し。神代のむかしより蒸し重なりたる苔のうつくしう青み渡りしあはひ/\に何げなく咲きいでたる杜鵑花(つつじ)の麗はしさ狩野派にやあらん土佐画にやあらん。 |
芥川龍之介 |
【首が落ちた話】 その庫(くら)をさがすと、宝物珍品が山のように積まれていて、およそ人世の珍とする物は備わらざるなしという有様であった。名香(めいこう)数斛(こく)、宝剣一雙(そう)、婦女三十人、その婦女はみな絶世の美女で、久しいものは十年もとどまっている。 |
嘉村礒多 |
【崖の下】 額の隱れるほど髮を伸ばし、薄汚い髯を伸ばし、ボロ/\の外套を羽織り、赤い帶で腰の上へ留めた足首のところがすり切れた一雙のズボンの衣匣(かくし)に兩手を突つ込んだやうな異樣な扮裝でひよつこり玄關先に立たれたら、圭一郎は奈何(どう)しよう。 |