作 家
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作 品
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内田魯庵 |
【灰燼十万巻(丸善炎上の記)】 銀の把柄(にぎり)の附いたステッキが薪のように一束となって其傍に投(ほう)り出されていた。 |
宮沢賢治 |
【耕耘部の時計】 赤シャツの農夫は炉のそばの土間に燕麦(オート)の稈(わら)を一束敷いて、その上に足を投げ出して座り、小さな手帳に何か書き込んでゐました。 |
泉鏡花 |
【竜潭譚(りゆうたんだん)】 |
巌谷小波 |
【こがね丸】 むかし取(とつ)たる杵柄(きねづか)とやら、一束(ひとつか)の矢一張(ひとはり)の弓だに持たさば、彼の黄金丸如きは、事もなく射殺(いころ)してん。 |
巌谷小波 |
【こがね丸】 むかし或(あ)る深山(みやま)の奥に、一匹の虎住みけり。幾星霜(いくとしつき)をや経たりけん、躯(からだ)尋常(よのつね)の犢(こうし)よりも大(おおき)く、眼(まなこ)は百錬の鏡を欺き、鬚(ひげ)は一束(ひとつか)の針に似て、一度(ひとたび)吼(ほ)ゆれば声山谷(さんこく)を轟(とどろ)かして、梢(こずえ)の鳥も落ちなんばかり。 |
寺田寅彦 |
【病室の花】 入院の翌日A君が菜の花を一束持って来てくれた。適当な花瓶(かびん)がなかったからしばらく金盥(かなだらい)へ入れておいた。 |
泉鏡花 |
【怨霊借用】 霜げた若い男が、蝋燭(ろうそく)を一束買ったらしく、手にして来たので、湯治場の心安さ、遊山(ゆさん)気分で声を掛けた。 |
岡本綺堂綺堂 |
【むかし語り】 それでも墓のまえには三束の線香が供えられて、その消えかかった灰が霜柱のあつい土の上に薄白くこぼれていた。 |
原民喜 |
【夏の花】 私は街に出て花を買ふと、妻の墓を訪れようと思つた。ポケットには仏壇からとり出した線香が一束あつた。 |
西田幾多郎 |
【我が子の死】 ただ余の出立(しゅったつ)の朝、君は篋底(きょうてい)を探りて一束の草稿を持ち来りて、亡児の終焉記(しゅうえんき)なればとて余に示された、 |
芥川龍之介 |
【MENSURAZOILI】 藍色(あいいろ)の夏服を着た、敏捷(びんしょう)そうな奴である、ボイは、黙って、脇にかかえていた新聞の一束(ひとたば)を、テーブルの上へのせる。そうして、直(すぐ)また、扉(ドア)の向うへ消えてしまう。 |
堀辰雄 |
【風立ちぬ】 「お父さんからお手紙だよ」 私は看護婦から渡された一束の手紙の中から、その一つを節子に渡した。 |
島崎藤村 |
【夜明け前 第一部 上】 村の宿役人仲間へ料紙一束ずつ、無尽の加入者一同への酒肴料(しゅこうりょう)、まだそのほかに、二巾(ふたはば)の縮緬(ちりめん)の風呂敷が二枚あった。 |
田山花袋 |
【ネギ一束】 われを忘れて、畑の中に入って、ほとんど人の物を盗むなどという念も起こらぬ中に、たちまち一束の葱を取って、それを揃(そろ)えて、もとの畠の道に出た。その時、同じ畠道を、一人の男−−かねて見知っている温泉宿の年寄りの番頭がこっちに歩いてきた。 葱を一束抱えてお作の立っているのを、ふと眼につけて、 「葱かね!」 と言って笑って通り過ぎた。 |
芥川龍之介 |
【馬の脚】 常子はやむを得ず荷造りに使う細引を一束(ひとたば)夫へ渡した。 |
寺田寅彦 |
【凩】 窪んだ眼にまさに没せんとする日が落ちて、頬冠りした手拭の破れから出た一束の白髪が凩(こがらし)に逆立(さかだ)って見える。 |
寺田寅彦 |
【芝刈り】 無数の葉の一つ一つがきわめて迅速に相次いで切断されるために生ずる特殊な音はいろいろの事を思い出させた。理髪師の鋏(はさみ)が濃密な髪の一束一束を切って行く音にいつも一種の快感を味わっていた私は、今自分で理髪師の立場からまた少しちがった感覚を味わっているような気がした。それから子供の時分に見世物で見た象が、藁(わら)の一束を鼻で巻いて自分の前足のひざへたたきつけた後に、手ぎわよく束の端を口に入れて藁のはかまをかみ切った、あの痛快な音を思い出したりした。 |