作品に出てくるものの数え方(助数詞)
 
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叢
作 家
作 品
泉鏡花
【高野聖】
田圃が湖にならぬが不思議で、どうどうと瀬(せ)になって、前途(ゆくて)に一叢(ひとむら)藪(やぶ)が見える、それを境にしておよそ二町ばかりの間まるで川じゃ。礫(こいし)はばらばら、飛石のようにひょいひょいと大跨(おおまた)で伝えそうにずっと見ごたえのあるのが、それでも人の手で並べたに違(ちが)いはない。
泉鏡花
【逗子より】
あはれ、妙音海潮音の海の色もこゝに澄み、ふりあふぐ山懐に、一叢しげれるみどりのの、蛍の光も宿すべく、濡色見えて暗きなかに、山の端分くる月かとばかり、大輪の百合唯一つ真白きが、はつと揺らぎて薫りしは、此の寂さに拍手の、峰にや響き候ひけん。
泉鏡花
【遺稿】
路近い農家の背戸に牡丹の緋に咲いて蕋の香に黄色い雲の色を湛へたのに、舞ふ蝶の羽袖のびの影が、佛前に捧ぐる妙なる白い手に見える。遠方の小さい幽な茅屋を包んだ一むらの奧深く、山はその麓なりに咲込んだ映山紅に且つ半ば濃い陽炎のかゝつたのも里親しき護摩の燃ゆる姿であつた。傘さして此の牡丹に彳み、すぼめて、あの竹藪を分けたらばと詣づる道すがら思つたのである。
泉鏡太郎
【人魚の祠】
差渡(さしわた)し、池(いけ)の最(もつと)も廣(ひろ)い、向(むか)うの汀(みぎは)に、こんもりと一本(ぽん)の柳(やなぎ)が茂(しげ)つて、其(そ)の緑(みどり)の色(いろ)を際立(きはだ)てて、背後(うしろ)に一叢(ひとむら)(もり)がある、中(なか)へ横雲(よこぐも)を白(しろ)くたなびかせて、もう一叢(ひとむら)、一段(いちだん)高(たか)く森(もり)が見(み)える。うしろは、遠里(とほざと)の淡(あは)い靄(もや)を曳(ひ)いた、なだらかな山(やま)なんです。
森鷗外
【うたかたの記】
岸辺の木立(こだち)絶えたる処に、真砂路(まさごじ)の次第に低くなりて、波打際(なみうちぎわ)に長椅子据(す)ゑたる見ゆ。蘆(あし)一叢(ひとむら)舟に触れて、さわさわと声するをりから、岸辺に人の足音して、木の間を出づる姿あり。身の長(たけ)六尺に近く、黒き外套を着て、手にしぼめたる蝙蝠傘(こうもりがさ)を持ちたり。
伊藤野枝
【転機】その道に沿うてただ一叢二叢僅かに聳えた木立が、そこのみが人里近いことを思わすだけで、どこをどう見ても、底寒い死気が八方から迫ってくるような、引き入れられるような、陰気な心持を誘われるのであった。
巌谷小波
【こがね丸】
心魂(こころ)も今は空になり、其処(そこ)か此処(ここ)かと求食(あさ)るほどに、小笹一叢(おざさひとむら)茂れる中に、漸(ようや)く見当る鼠の天麩羅(てんぷら)。得たりと飛び付き咬(く)はんとすれば、忽ち発止(ぱつし)と物音して、その身の頸(くび)は物に縛(し)められぬ。「南無三(なむさん)、罠(わな)にてありけるか。
横光利一
【春は馬車に乗って】
海浜の松が凩(こがらし)に鳴り始めた。庭の片隅(かたすみ)で一叢(ひとむら)の小さなダリヤが縮んでいった。
彼は妻の寝ている寝台の傍(そば)から、泉水の中の鈍い亀の姿を眺(なが)めていた。
有島武郎
【カインの末裔】
昆布岳(こんぶだけ)の一角には夕方になるとまた一叢(ひとむら)が湧いて、それを目がけて日が沈んで行った。
作者不詳
国民文庫
(明治43年)
校訂: 古谷知新
【源平盛衰記】
不思議やと思立出て、四方を見渡せば、此山より黒雲一叢引渡、雷電ひゞきて氷の雨ふり、能美の山の峰つゞき、塩津、海津、伊吹の山、比良の裾野、和爾、片田、比叡山、唐崎、志賀、三井寺に至まで、皆白平に雪ぞ降。
作者不詳
国民文庫
(明治43年)
校訂: 古谷知新
【源平盛衰記】
是より法輪は程近ければ、そも参給へる事もやとて、そなたへ向てあゆませ行。亀山のあたり近、一叢ある方に、幽に琴こそ聞えけれ。峯の嵐か松風か、尋ぬる君の琴の音かと覚束なく思ひ、駒をはやめて行程に、片折戸の内に琴をぞ引澄したる。
 
   
 
 

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Last updated : 2024/06/28