作 家
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作 品
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太宰治 |
【おさん】 「あの、睡眠剤が無かったかしら。」 「ございましたけど、あたし、ゆうべ飲んでしまいましたわ。ちっとも、ききませんでしたの。」 「飲みすぎるとかえってきかないんです。六錠くらいがちょうどいいんです。」 不機嫌(ふきげん)そうな声でした。 |
中島敦 |
【かめれおん日記】 朝になつて未だ不安なので、エフェドリン八錠服用。朝食は攝らず。息苦しきため横臥する能はず。終日椅子に掛け机に凭り、カメレオンの籠を前に、頬杖をついて眺める。 |
南部修太郎 |
【日曜日から日曜日まで】 昨日一日の疲れか明方やや強い喘息發作、アストオル吸入で鎭まるには鎭まつたが何やら不安なのでエフエドリン一錠半服用、例の陶醉的作用でやがて再び昏昏と眠り入る。 |
田中英 |
【野狐】 私は眠れないまま、しきりに催眠剤を用いるようになった。はじめはカルモチンなら十錠、アドルムなら二錠で眠られたのが、しまいには、カルモチン五十錠から百錠の間、アドルム十錠ほど、一気にのまなければ眠られなくなった。それも飲むと眠たくなる代りに気持よい昂奮状態(こうふんじょうたい)が訪れる。 |
渡辺温 |
【花嫁の訂正 −夫婦哲学−−】 夜が明けかけても、二人の男女は少しも悪い容体にならずに、現世(このよ)に存(ながら)えている。Aは到頭我慢が出来なくなって、もう一度薬を飲むことにした。併し、三錠目は壜の中にパラフィン紙がつまっていて、なかなか出て来なかった。マッチの棒を使って漸くパラフィン紙ごと出してみると、今度は白い錠剤だった。 |
岡本綺堂 |
【中国怪奇小説集 輟耕録】 「主人の家(うち)に婚礼がありまして、親類から珠(たま)の耳環(みみわ)を借りました。この耳環は銀三十錠の値いのある品だそうでございます。 |