作 家
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作 品
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芥川龍之介 |
【しるこ】 しかしあの逞(たくま)しいムツソリニも一椀(わん)の「しるこ」を啜(すゝ)りながら、天下(てんか)の大勢(たいせい)を考(かんが)へてゐるのは兎(と)に角(かく)想像(さうぞう)するだけでも愉快(ゆくわい)であらう。 |
尾崎紅葉 |
【二人比丘尼色懺悔】 草鞋とつて主人が勧むる微温湯に足を濯ぎ。導かれて炉に近く坐を占め。初対面の挨拶。やがて渋茶一椀。饗応ぶりにさしくべる榾の。焚上る炎に客は背ける顔。 |
岡本かの子 |
【初夏に座す】 この際、忙中寸暇を割いて、座つて落ち付いて見る、場所はあまり物を置かない庭向きの座敷がいい、新茶の一椀を啜つて見るのもいい、これは決して贅沢でも閑人でもない。 |
海野十三 |
【敗戦日記】 自分もこの二、三日腹が減ってかなわず、なんということもなく廊下トンビをくりかえしていて、おやと気がつく。子供は騒いでいないのに、おやじの私がこのていたらくでは困ったものだと赧(あか)くなる次第である。 もっとも、昼は雑炊二わんであるので、減るのも無理はない。 |