作 家
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作 品
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寺田寅彦 |
【天災と国防】 台風の襲来を未然に予知し、その進路とその勢力の消長とを今よりもより確実に予測するためには、どうしても太平洋上ならびに日本海上に若干の観測地点を必要とし、その上にまた大陸方面からオホツク海方面までも観測網を広げる必要があるように思われる。しかるに現在では細長い 日本島弧 (にほんとうこ )の上に、言わばただ一連の念珠のように観測所の列が分布しているだけである。たとえて言わば 奥州街道 (おうしゅうかいどう )から来るか東海道から来るか信越線から来るかもしれない敵の襲来に備えるために、ただ中央線の沿線だけに 哨兵 (しょうへい )を置いてあるようなものである。 |
佐々木味津三 |
【右門捕物帖 へび使い小町】 厚漉(あつず)きの鳥の子紙に、どうしたことか裏にも表にも変な文句が書いてあるのです。しかも、その裏なる文字がひととおりでない奇怪さでした。 「——寝棺(ねかん)、 三個。 経帷子(きょうかたびら)、 三枚。 水晶数珠(すいしょうじゅず)、三連。 三途笠(さんずがさ)、三基。 六道杖(どうづえ)、 三杖(じょう)。 右まさに受け取り候(そうろう)こと実証なり 久世大和守(やまとのかみ)家中 小納戸頭(おなんどがしら) 茂木甚右衛門(じんえもん)」 それすらが容易ならざるところへ、表の文字はさらに数倍の奇々怪々たるものでした。 |
宮本百合子 |
【労働者農民の国家とブルジョア地主の国家 −−ソヴェト同盟の国家体制と日本の国家体制−−】 ブルジョア・地主的日本の国家機構に於ける中央集権は、天皇から小さい村の村長に至るまで一連の鎖によって固く繋がれた搾取と、抑圧のための中央集権である。 |
宮本百合子 |
【C先生への手紙】 けれども、支えて放たれない光りを背に据えた一連の山々は、背後の光輝が愈々増すにつれて、刻一刻とその陰影を深めて参ります。 |
木下杢太郎 |
【少年の死】 一方に海があつて、それに鉤手(かぎのて)に一連の山があり、そしてその間が平地として、汽車に依つて遠國の蒼渺たる平原と聯絡するやうな、或るやや大きな町の空をば、この日例(いつ)になく鈍い緑色の空氣が被(おほ)つてゐる。 |
有島武郎 |
【生まれいずる悩み】 なんという広大なおごそかな景色だ。胆振(いぶり)の分水嶺から分かれて西南をさす一連の山波が、地平から力強く伸び上がってだんだん高くなりながら、岩内の南方へ走って来ると、そこに図らずも陸の果てがあったので、突然水ぎわに走りよった奔馬が、そろえた前脚(まえあし)を踏み立てて、思わず平頸(ひらくび)を高くそびやかしたように、山は急にそそり立って、沸騰せんばかりに天を摩している。 |
作者不詳 |
【源平盛衰記】 今の世まで六十人の山篭とて、都鄙の修行者集りて、難行苦行するとかや。彼花山法皇の御行の其間に、様々の験徳を顕させ給ける其中に、竜神あまくだりて如意宝珠一顆水精の念珠一連、九穴の蚫貝一つを奉る。 |