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没分暁漢
ぼつぶんぎょうかん |
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作家
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作品
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森鴎外 |
【文芸の主義】
自然主義ということを、こっちでも言っていたが、あれはただつとめて自然に触接するように書くというだけの意義と見て好い。それは芸術というものがそうなくてはならないものである。自然主義というものに、恐ろしい、悪い意義があるように言い触らしたのは、没分暁漢の言か、そうでなければためにするものの言である。もっともおかしいのは自然主義は自由恋愛主義だという説である。 |
夏目漱石 |
【明暗】
彼はちょっと行きつまった。彼の胸には云うべき事がまだ残っているのに、彼の頭は自分の思わく通り迅速(じんそく)に働らいてくれなかった。「しかし――断ったのに是非来いなんていうはずがないじゃないか」 「それを云うのよ。岡本もよっぽどの没分暁漢(わからずや)ね」 津田は黙ってしまった。何といって彼女を追究(ついきゅう)していいか見当(けんとう)がつかなかった。 「あなたまだ何かあたしを疑ぐっていらっしゃるの。あたし厭だわ、あなたからそんなに疑ぐられちゃ」 彼女の眉(まゆ)がさもさも厭そうに動いた |
夏目漱石 |
【中味と形式 ――明治四十四年八月堺において述――】
専門の智識が豊かでよく事情が精(くわ)しく分っていると、そう手短かに纏(まと)めた批評を頭の中に貯えて安心する必要もなく、また批評をしようとすれば複雑な関係が頭に明暸(めいりょう)に出てくるからなかなか「甲より乙が偉い」という簡潔な形式によって判断が浮んで来ないのであります。幼稚な智識をもった者、没分暁漢(ぼつぶんぎょうかん)あるいは門外漢になると知らぬ事を知らないですましているのが至当であり、また本人もそのつもりで平気でいるのでしょうが、どうも処世上の便宜からそう無頓着(むとんじゃく)でいにくくなる場合があるのと、一つは物数奇(ものずき)にせよ問題の要点だけは胸に畳み込んでおく方が心丈夫なので、とかく最後の判断のみを要求したがります。
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幸田露伴 |
【震は亨る】
地震学はまだ幼い学問である。然るに、あれだけの大災に予知が出来無かつたの、測震器なんぞは玩器(おもちや)同様な物であつたのと難ずるのは、余りに没分暁漢(わからずや)の言である。強震大震の多い我邦の如き国に於てこそ地震学は発達すべきである。諸外国より其智識も其器械も歩を進めて、世界学界に貢献すべきである。
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寺田寅彦 |
【田園雑感】
田舎だけしか知らない人には田舎はわからないし、都会から踏み出した事のない人には都会はわからない。都鄙(とひ)両方に往来する人は両方を少しずつ知っている。その結果はどちらもわからない前の二者よりも悪いかもしれない。性格が分裂して徹底した没分暁漢になれなくなるから。それはとにかく、自分は今のところでは田舎(いなか)よりも都会に生活する事を希望し、それを実行している。
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国枝史郎 |
【戯作者】
手を拍って使僕(こもの)を呼んだものである。馬琴の父は興蔵(こうぞう)といって松平信成(のぶなり)の用人であったが、馬琴の幼時死亡した。家は長兄の興旨(こうし)が継いだが故あって主家を浪人した。しかし馬琴だけは止まって若殿のお相手をしたものである。しかるに若殿がお多分に洩れず没分暁漢(わからずや)の悪童で馬琴を撲ったり叩いたりした。そうでなくてさえ豪毅一徹清廉潔白の馬琴である。憤然として袖を払い、 木がらしに思い立ちけり神の旅 こういう一句を壁に認めると、飄然と主家を立ち去ってしまった。 |
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