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本家本元
ほんけほんもと
作家
作品

下村湖人

【次郎物語 第五部】

「やはり政党の腐敗(ふはい)に憤激(ふんげき)してのことでしょうか。」
「それもあるだろう。それはたしかに事をおこす名目(めいもく)にはなる。しかし、今度のことは、おそらく陸軍内部の派閥(はばつ)争いに直接の原因があるだろう。」
「陸軍の内部にそんな争いがあっていたんですか。」
「挙国一致(きょこくいっち)」という合い言葉の本家本元(ほんけほんもと)が軍隊であり、そしてその合い言葉で、国民を刻一刻と、のっぴきならぬ羽目に追いたてているのがこのごろの軍人であるということ以外に、軍隊の裏面について何も知らなかったかれとしては、それは無理もない質問だったのである。

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太宰治

【パンドラの匣】

「しかし、多少は知っていなくちゃいけないね。これから、若い人みんなに選挙権も被選挙権も与えられるそうだから。」と越後は、一座の長老らしく落ちつき払った態度で言い、「自由思想の内容は、その時、その時で全く違うものだと言っていいだろう。真理を追及して闘った天才たちは、ことごとく自由思想家だと言える。わしなんかは、自由思想の本家本元は、キリストだとさえ考えている。思い煩(わずら)うな、空飛ぶ鳥を見よ、播(ま)かず、刈らず、蔵に収めず、なんてのは素晴らしい自由思想じゃないか。わしは西洋の思想は、すべてキリストの精神を基底にして、或いはそれを敷衍(ふえん)し、或いはそれを卑近にし、或いはそれを懐疑し、人さまざまの諸説があっても結局、聖書一巻にむすびついていると思う。

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宮本百合子

【新しい一夫一婦】

 日本の解放運動は、広く知られているとおり、最近八九年間に世界史にも多く例を見ないほど複雑な困難を経験した。その困難な実践をとおし、次代の建設との関連において、恋愛・結婚観も徐々に高められて今日に至っていることを私たちは見落してはならぬと思う。
 階級的な男女の結合というと、すぐコロンタイの「赤い恋」が話題にのぼったのは、かれこれ七年くらい前のことであろうか。当時私はモスクワにいた。そして本家本元のソヴェト同盟では厳密に批判され、本屋に本も出ていないようなコロンタイズムが流布することを知って、非常に苦しいような驚いた心持がしたのを今もはっきり覚えている。

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内田魯庵

【二十五年間の文人の社会的地位の進歩】

然るに文人に強うるに依然清貧なる隠者生活を以てし文人をして死したる思想の木乃伊(ミイラ)たらしめんとする如き世間の圧迫に対しては余り感知せざる如く、蝸牛の殻に安んじて小ニヒリズムや小ヘドニズムを歌って而して独り自ら高しとしておる。一部の人士は今の文人を危険視しているが、日本の文人の多くは、ニヒリスト然たる壁訴訟をしているに関わらず、意外なる楽天家である。
 新旧思想の衝突という事を文人の多くは常に口にしておるが、新思想の本家本元たる文人自身は余り衝突しておらぬ。いつでも旧思想の圧迫に温和しく抑えられて服従しておる。文人は文人同志で新思想の蒟蒻屋問答や点頭き合いをしているだけで、社会に対して新思想を鼓吹した事も挑戦した事も無い。今日のような思想上の戦国時代に在っては文人は常に社会に対する戦闘者(ファイター)でなければならぬが、内輪同士では年寄の愚痴のような繰言を陳べてるが、外に対しては頭から戦意が無く沈黙しておる。

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原民喜

【壊滅の序曲】

 その翌朝、清二の妻は事務室に順一を訪れて、疎開のことをだらだらと訴へ、建物疎開のことは市会議員の田崎が本家本元らしいのだから、田崎の方へ何とか頼んでもらひたいといふのであつた。

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寺田寅彦

【ラジオ・モンタージュ】

 プドーフキンやエイゼンシュテインらの映画の芸術的価値が世界的に認められると同時に彼らのいわゆるモンタージュの理論がだいぶ持てはやされ、日本でもある方面ではこのモンタージュということが一種のはやり言葉になったかのように見える。この言葉の意味については本家本元の二人の間にも異論があるそうであって、これについては近ごろの読売新聞紙上で八住利雄(やすみとしお)氏が紹介されたこともある。

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石原莞爾

【最終戦争論・戦争史大観】

 それからヨーロッパの組はドイツ、イギリス、それにフランスなど、みな相当なものです。とにかく偉い民族の集まりです。しかし偉くても場所が悪い。確かに偉いけれどもそれが隣り合わせている。いくら運命協同体を作ろう、自由主義連合体を作ろうと言ったところで、考えはよろしいが、どうも喧嘩はヨーロッパが本家本元であります。その本能が何と言っても承知しない、なぐり合いを始める。

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夢野久作

【焦点を合せる】

鉄の板でも何でもボール紙みたいに突き破って、船の外へ頭を出すにきまっている。そのまま、ズルズルズッポリと外へ抜け出してしまったら、ソレッキリの千秋楽だ。取り返しが付かぬどころの騒ぎじゃない。飛び出しがけの置土産(おきみやげ)に巨大(おおき)な穴でもコジ明けられた日には、本家本元の船体が助からない。シャフトのアトからブクブクブクと来るんだ。……ハッハッどうだい。わかるかね。シャフトの素晴らしさが。ウン。わかるだろう。コンナ篦棒(べらぼう)な苦心した機関長はタントいないだろうと思うがね。

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岡本綺堂

【半七捕物帳 歩兵の髪切り】

 しかし、まったく関係がないとは云えない。鮎川丈次郎はお房の関係から彼(か)の米吉と知合いになった。そうして、米吉の手から金銭をうけ取って髪切りの役目を引き受ける事になったらしい。増田太平も遊蕩の金に困って、鮎川と米吉に誘い込まれたのであろうと、半七は説明した。
 燈台もと暗しと云うか、足もとから鳥が立つと云うか、自分の部下からこの犯人を見いだして、小隊長も頗る意外に感じたらしい。それにつけても第一の問題は、かれらを買収して髪切りのいたずらを実行させた本家本元である。根井は暫く考えながら云った。

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中里介山

【大菩薩峠 禹門三級の巻】

「拙者共でお役に立つならば、ずいぶんお手助けを致すまいものでもないが、いったい、その巨根というのは何者だ」
「それは三田の四国町あたりに巣を食っている」
「なるほど」
「つまり、いたずら者の本家本元は薩摩だ、薩摩というやつは実に不埒千万(ふらちせんばん)なやつだ、その薩摩を取って押えて、ふかしたり、焼いたりしてしまいたいものだ」
「なるほど」

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岡本綺堂

【半七捕物帳 白蝶怪】

「唯のいたずらじゃあねえに決まっている。それにはお冬を使って、何かの仕事を目論(もくろ)んでいる奴があるに相違ねえ。誰かがお冬の糸を引いて、お冬がまた蝶々の糸をひくと云うわけだから、順々に手繰(たぐ)って行かなけりゃあ本家本元は判らねえ。それにしても、ここまで漕ぎ付けりゃあ大抵の山は見えているよ」と、吉五郎は笑っていた。
「そうすると、お冬はゆうべ又あの寺へ舞い戻って来たんでしょうか」と、留吉はまた訊いた。

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Last updated : 2024/06/28