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砲煙弾雨
ほうえんだんう |
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作家
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作品
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寺田寅彦 |
【天災と国防】
人類が進歩するに従って愛国心も大和魂(やまとだましい)もやはり進化すべきではないかと思う。砲煙弾雨の中に身命を賭(と)して敵の陣営に突撃するのもたしかに貴(たっと)い日本魂(やまとだましい)であるが、○国や△国よりも強い天然の強敵に対して平生から国民一致協力して適当な科学的対策を講ずるのもまた現代にふさわしい大和魂の進化の一相として期待してしかるべきことではないかと思われる。天災の起こった時に始めて大急ぎでそうした愛国心を発揮するのも結構であるが、昆虫(こんちゅう)や鳥獣でない二十世紀の科学的文明国民の愛国心の発露にはもう少しちがった、もう少し合理的な様式があってしかるべきではないかと思う次第である。
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清水紫琴 |
【野路の菊】
我等が出しや張る幕でないと、こらへてはをるものの、この間もこの間とて奥様の、お艶の留守を気にせられお艶殿が早う帰つてくれずでは、旦那様のお世話は不行届きがちでお気の毒やと、お艶の居ぬ間はいっそう旦那に気を兼ねらるる様子、まるで初心の嫁御寮が、姑の前へ出るやうなと、己れは見てさへ涙が溢(こぼ)れると老人の一徹に、思はず水涕打ちかめば、お針とお三は一時に吹出し、藤助どのの何事ぞ、当節柄そんな忠義三昧は流行らぬ流行らぬそれよりは鬼の来ぬ間の、洗濯時とは今日この頃の事、お艶どのも、大方須磨で今頃はお楽しみであろ。我等は似合ひのお芋の御馳走、出し合ひで買ふじやないかと、お針の発議はたちどころに成立ちて、藤助爺(おやじ)は使命を帯び、風呂敷片手に立出でたるが、やがては焼芋の砲煙弾雨に、お艶の噂も中止となりしなるべし。
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オン・ワタナベ |
【兵士と女優】
「そいつは、愉快だね。僕だって、今度の戦争ならば全くそうに違いないと思ったぜ」「そう。そう云えば、あんたから送って来た戦地のスナップショット、どれもこれも、とてもお天気がいいね。それに塹壕(ざんごう)の中には柔かそうな草が生えているし、原っぱはまるで芝生のように平かだし、砲煙弾雨だって全く芝焼位しかないし、あたい兵隊が敵に鉄砲向けているところ、ちょっと見たら、中学生の昼寝じゃないかと思ったわ」 「敵の軍勢がいないんだよ」 「敵がいない戦争なんてあって?」 |
ビクトル・ユーゴー 豊島与志雄訳 |
【レ・ミゼラブル 第三部 マリユス】
債権者らもまた、マリユスほどの好意はないが同じような熱心をもって、彼をさがし回った。しかし彼に手をつけることはできなかった。マリユスは自分の探索の不成功を、自ら責め自ら憤った。それは大佐が彼に残した唯一の負債で、彼は名誉にかけてそれを払おうと欲した。彼は考えた。「ああ、父が死にかかって戦場に横たわっている時、彼テナルディエは砲煙弾雨の中に父を見いだし、肩に担(にな)って連れだしてくれた。しかも彼は父に何らの恩をも受けていなかったのである。そしてテナルディエにかく負うところ多いこの自分は、暗黒のうちに苦悩に呻吟(しんぎん)してる彼を見いだすこともできず、彼を死より生へと連れ戻すこともできないのか。
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夢野久作 |
【「生活」+「戦争」+「競技」÷0=能】
戦争となると、日常生活よりも真剣味が高潮しているだけに、一層この感が深い。一度火蓋を切ったが最後、全戦線が「能的の気魄」をもって充たされていると言っていいであろう。その砲煙弾雨の中を一意敵に向って散開し、躍進する千変万化の姿は、男性の姿態美の中でも、最高潮した「気をつけ」の緊張美以上に超越したものの千変万化でなければならぬ。勇ましいとも、美しいとも、尊いとも、勿体ないとも、涙ぐましいとも、何ともかんともたとえようのない人間美の現われでなければならぬ。更にその中で、毅然として勝敗の外に立ちつつ、全局を支配して行く名将の心境(というものがあるとすれば)、それこそ正に舞曲を以て天命の所作と心得ている能楽師(そんな人がいるとすれば)の心境と一致するものではあるまいか。
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岡本綺堂 |
【青蛙堂鬼談】
「それじゃあ、その娘というのも何かに取憑(とりつ)かれてでもいるのかも知れないな。」とT君は言った。「そうなると、我れわれの薬じゃあ療治は届かないぞ。」とM君は笑い出した。 僕たちも一緒に笑った。ふだんならばともかくも、いわゆる砲煙弾雨(ほうえんだんう)のあいだをくぐって、まかり間違えば砲弾のお見舞を受けないとも限らない現在の我れわれに取っては、家に妖ありぐらいは余り問題にならないのであった。 「それにしても、娘は遅いな。」 |
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