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無茶苦茶
むちゃくちゃ
作家
作品

夏目漱石

【正岡子規】

今正岡が元気でいたら、余程よほど二人の関係は違うたろうと思う。もっとも其他、半分は性質が似たところもあったし、又半分は趣味の合っていた処もあったろう。も一つは向うの我とこちらの我とが無茶苦茶に衝突もしなかったのでもあろう。忘れていたが、彼と僕と交際し始めたも一つの原因は、二人で 寄席よせの話をした時、先生も大に寄席通をもって任じて居る。ところが僕も寄席の事を知っていたので、話すに足るとでも思ったのであろう。それからおおいに近よって来た。

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芥川龍之介

【蒐書】

もし集めた書籍であるとすれば、其処そこに何か全体に通ずる脈絡みやくらくそなへてゐなければならぬ。しかし僕の架上かじやうの書籍は集まつた書籍である証拠しやうこに、すこぶ糅然じうぜん紛然ふんぜんとしてゐる。脈絡みやくらくなどと云ふものは薬にしたくもない。
 では全然 無茶苦茶むちやくちやかと云ふと、かならずしもまたさうではない。少くとも僕の架上かじやうの書籍は僕の好みを示してゐる。

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樋口一葉

【十三夜】

 してお内儀さんはと阿關の問へば、御存じで御座りましよ筋向ふの杉田やが娘、色が白いとか恰好が何うだとか言ふて世間の人は暗雲やみくもに褒めたてたもので御座ります、私が如何にも放蕩のらをつくして家へとては寄りつかぬやうに成つたを、貰ふべき頃に貰はぬからだと親類の中の解らずやが勘違ひして、彼れならばと母親が眼鏡にかけ、是非もらへ、やれ貰へと無茶苦茶に進めたてる 五月蠅うるささ、何うなりと成れ、成れ、勝手に成れとて彼れを家へ迎へたは丁度貴孃が御懷妊だと聞ました時分の事、一年目には私が處にもお目出たうを他人からは言はれて、犬張子いぬはりこや風車を並べたてる樣に成りましたれど、何のそんな事で私が放蕩のやむ事か、

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坂口安吾

【手紙雑談】

生れつきづぼらの性で遺言状も書き忘れて死ぬおそれがあるから、手紙や日記(尤もそんなものはつけてゐない)の出版はやらないやうに呑みこんでゐてくれと言つたのである。気のいい男だから忽ち胸を張つて、俺の眼の黒いうちは金輪際保証すると大呑みこみに呑みこんだ。
「然し君」と大江は言ふ「君の小説は一向大衆に親しまれないかも知れないが、その無茶苦茶な喧嘩の手紙やキザな恋文は大いに受けるかも知れないのだがね……」
 これはもう人生的な笑話で、べつだん腹は立たない。

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織田作之助

【道なき道】

 ――彼は大阪では少しは人に知られたヴァイオリン弾きであったが、年中貧乏していた。「津路ヴァイオリン教授所」の看板を掛けているのだが、偏屈なのと、稽古が無茶苦茶にはげし過ぎるので、弟子は皆寄りつかなくなって、従って収入りも尠かったのである。

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正岡子規

【萬葉集卷十六】

吾妹子が額におふる雙六のことひの牛の鞍の上の瘡
 此歌は理窟の合はぬ無茶苦茶な事をわざと詠めるなり。馬鹿げたれど馬鹿げ加減が面白し。

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北原白秋

【神童の死】

 この思ひがけない悲劇事の続出に、それでも彼が冷静に有り得やうとは誰一人思へる訳は無い。無論彼は逆上して了つた。
かかあ、ゆ、許してくれ、おら、申わけがねえ。申わけがねえだ。』
 そのまま、納屋へ飛び込んで行つて、壁にかかつてゐた草刈鎌で、無茶苦茶に腹に突き立てて了つた。
 一家全滅。
 これで事実はをはつてゐる。

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伊藤野枝

【わがまま】

はっとした彼女は、つと立ってしまった。いつの間にかすっかり自分の気持に釣込まれて、自分に少しの同情もない何にもしらないまき子や、ことに自分とはほとんど無関係な安子の前で彼女等の眼をみはらせるようなかるはずみらしいことをした事が何とはなしに自分に対して忌々しくなってきて、そのまま無茶苦茶に歩いて出口の方へ行った。車寄のすぐ左の赤いポストが登志子の眼につくと、彼女は思い出したように引き返して袋の中から葉書と鉛筆を出した。

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太宰治

【母】

「軍隊では、ずいぶんなぐられましてね。」
「そりゃ、そうだろう。僕だって君を、殴ってやろうかと思う事があるんだもの。」
「小生意気に見えるんでしょうかね。しかし、軍隊は無茶苦茶ですよ。僕はこんど軍隊からかえって来て、 鴎外おうがい全集をひらいてみて、鴎外の軍服を着ている写真を見たら、もういやになって、全集をみなたたき売ってしまいました。鴎外が、いやになっちゃいました。死んでも読むまいと思いました。あんな、軍服なんかを着ているんですからね。」

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幸田露伴

【連環記】

 ただし世法は慈仁のみでは成立たぬ、仁の向側と云っては少しおかしいが、義というものが立てられていて、義は利のなりとある。仁のみ過ぎて、利の和を失っては、不埒ふらち不都合になって、やや無茶苦茶になって しまう。で、保胤の慈仁一遍の調子では、保胤自身を累することの起るのも自然のことである。

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Last updated : 2024/06/28