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無味乾燥
むみかんそう
作家
作品

太宰治

【正義と微笑】

聖書を読みたくなって来た。こんな、たまらなく、いらいらしている時には、聖書に限るようである。他の本が、みな無味乾燥でひとつも頭にはいって来ない時でも、聖書の言葉だけは、胸にひびく。本当に、たいしたものだ。

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堀辰雄

【「繪本」】

例へば永井の場合では、「泉」や「繪本」などを裏打ちにしてゐるもの、――さういふものを逆に今度は作品の表面に持ち出したのである。この一見他奇なく家常茶飯事を書きつづつたごとく見える作品が、この種の作品にありがちな無味乾燥に陷つてゐないばかりか、一種の遊離した美しさを獲ち得てゐるのは、この作品の裏側になつて、ほとんど人目につかずにゐる永井獨特の Imagination の力ではないか。そしてこんどは、その永井の隱し立てが私達の好奇心をそそるのだ。

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岸田國士

【方言について】

附近の主婦たちが、声高に子供を叱り、ご用聞きに註文したりしてゐるのを聞くと、それは東京弁と凡そ隔りのある訛りとアクセントだ。が、さうかと云つて、それは私の知る限り、どこの方言でもないのである。どうかすると外国人ではないかと思ふほど、無味乾燥な日本語で、しかも、本人は少しもそんなことは気にとめてゐない。標準語を話してゐるつもりなのであらう。ああ、悲しむべき標準語よと、私は、つくづく思ふことがある。この勢ひで進めば、われわれの周囲で、美しい日本語を聞くことはできなくなるとさへ断言し得る。

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伊丹万作

【顔の美について】

近ごろは西洋かぶれの流行から一般の美意識は二重まぶたを好むようであるが、あまりはつきりした二重まぶたは精神的な陰翳が感じられなく甘いばかりで無味乾燥なものである。東洋的な深みや味は一重まぶたもしくははつきりしない二重まぶたにあり、長く眺めて飽きないのはやはりこの種の顔である。

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三島霜川

【自傳】

然し、然うした小説類を暇さへあれば耽讀して居る中に、無味乾燥な教科書類が面白くなく、親父の入れると云ふ學校にも はいらず、毎日ぶら/″\して、好きな小説に讀み耽つて二三年間と云ふもの、怠け者のやうに要領を得ずに暮した。其間に些つと金澤へ行つたことがある。

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豊島与志雄

【野に声なし】

表現の技巧は作品に生命を与うるものではない。材料に対する興味や興奮もそうである。
 そういうものばかりで出来上ってる作品は、外見は如何に巧みであり力強くあろうとも、実質は無味乾燥で上滑りがしていて、生命の気が籠っていない。

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寺田寅彦

【教育映画について】

実際もし映画ことに発声映画の技術が発達を重ねて行ってその器械がもう少し安くなって一般の使用に便利なようになれば、多くの学校の無味乾燥な教授の大部分は映画で置換えられるであろう。

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牧野信一

【貧しき日録】

正月半ばまで書いた彼の日記帳が数冊本箱の中に、つい二三年前まで彼の故郷の家に残つてゐたが、一度彼は一寸それを開いて見たこともあつたが、幼時を懐しむ感傷などはそれこそ毛程も起らず、その無味乾燥な文章を見て、幼時の表裏ある心が見え透いて、反つて背中がムズムズするばかりで、煤掃きの時火中に投じてしまつたことがある。

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高村光太郎

【智恵子の半生】

或はもっと天然の寿を全うし得たかも知れない。そう思われるほど彼女にとっては肉体的に既に東京が不適当の地であった。東京の空気は彼女には常に無味乾燥でざらざらしていた。女子大で成瀬校長に奨励され、自転車に乗ったり、テニスに熱中したりして すこぶる元気溌剌はつらつたる娘時代を過したようであるが、卒業後は概してあまり頑健という方ではなく、様子もほっそりしていて、一年の半分近くは田舎や、山へ行っていたらしかった。

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菊池寛

【青木の出京】

負惜しみが強く、アンビシャスであった青木が、同窓の人たちが大学を出て、銘々に世の中に受け入れられていくのを見ながら、無味乾燥な田舎に、その青春時代を腐らせていったもどかしさや、苦しさや、残念さを考えると、雄吉は、自分自身の恨みを忘れて、青木のために悲しまずにはおられなかった。

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Last updated : 2024/06/28