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乳母日傘
おんばひがさ
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作家
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作品
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【ある恋の話】
私の妻の祖母は――と云って、もう三四年前に死んだ人ですが――蔵前の札差で、名字帯刀御免で可なり幅を利かせた山長――略さないで云えば、山城屋長兵衛の一人娘でした。何しろ蔵前の札差で山長と云えば、今で云うと、政府の御用商人で二三百万円の財産を擁しておろうと云う、錚々たる実業家に当る位置ですから、その一人娘の――尤も男の子は二人あったそうです。――祖母が、小さい時からお
乳母日傘で大きくなったのは申すまでもありません、祖母の小さい時の、記憶の一つだと云う事ですが、お正月か何かの宮参りに履いた木履は、朱塗の金蒔絵模様に金の鈴の付いたものでしたが、おまけにその木履の胴が刳貫になっていて、祖母が駕籠から下りて木履を履く時には、ちゃんとその中に湯を通して置くと云う、贅沢な仕掛になっているそうであります。
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【爆弾太平記】
……そのうちに発動機船は、父さんの身体を海に投込んでウチ達の舟を曳いたまま、どこかへ行ってしもうた。その時に波の間を泳いでいたウチは直ぐに父さんの身体に取り付いて、頭を抱えながら仰向き泳ぎをして、一生懸命であの岩の上まで来たけれど、向うが絶壁で登りようがない。そのうちに汐がさして来て、岩の上が狭くなったから、どこかへ泳いで行くつもりで、父さんの耳に口を当て、「待っておいで……讐敵を取ってやるから」と云うていた。そうしたら先生が来て助けてくれた。……ウチは今年十二になる。ドンは怖くない。面白い……」
というのだ。ウン。とてもシッカリした奴なんだ。第一そういう面魂が尋常じゃなかったよ。お
乳母日傘でハトポッポーなんていった奴とは育ちが違うんだからね……。
……ウンウン。そうなんだ。つまり彼等仲間の所謂「私刑」に処せられた訳だ。その紋付袴の男が誰だったか、今だに調べてもいないが、むろん調べる迄もない。林友吉の頭脳と仕事ぶりを警戒していた、釜山の有力者の一人に相違ないのだ。そいつが友吉親子の顔を見知っていたので、それとなく貰い下げて追い放した奴を、外海で待伏せていた配下の奴が殺ったものに違いないね。……もっとも友吉おやじがその筋の手にかかったのはこの時が皮切りだったから、或は余計な事でも饒舌られては困る……という算段だったかも知れないがね……。
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【おさんだいしよさま】
横丁生れ
お乳母日傘の
娘さん達よ
わたしや下街
横丁の生れ
蝶よ花よぢや
育ちやせぬ
産みの親より
育ての親ぢや
親も横丁の
角生れ
わたしや皆さん
気も荒い
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【お蝶夫人】
お父さんのお母さん、すなわち私のお祖母さんは、近所で評判の器量よしで、その上声が美しくて唄が上手だったので、朝日奈小町とか、鴬小町とかいわれて大騒ぎされたそうです。私が声楽家になったのは、お祖母さんの隔世遺伝だったのだと思います。
私は両親から非常に可愛がられて、本当に乳母をつけて文字通り、お
乳母日傘
で育てられました。父が派手者で芸が好きだったので、私は三歳の時から藤間流の踊りをお稽古しました。「汐汲み」を踊って、楽屋で乳母やのおっぱいを飲んだことを朧気に覚えています。
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Last updated : 2024/06/28