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弱肉強食
じゃくにくきょうしょく
力の弱い者が強い者の餌食えじき になること。力の強い者が勝ち栄え、弱者が強者の犠牲になること。
⇒ 弱肉強食 ⇒ 優勝劣敗
作家
作品

森鴎外

【柵草紙の山房論文】

 近頃我國にて造化を以て美術を説かむと試みし人は、前に撫象子ぶしやうしあり、後に逍遙子あり。撫象子が自然主義は沒理想に非ずして有理想なり。その極致は古の希臘人に似て善と美とを併せたるものなり。さればおなじく自然といひ、造化といへど、ゾラが自然は弱肉強食の自然なるに、撫象子が造化は てふ舞ひ鳥歌ふ造化なり。逍遙子が自然主義は則ちこれに反す。その沒理想の造化ははなはだゾラが造化に肖たり。

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坂口安吾

【二流の人】

 彼は信長の同盟者だ。然し、同盟、必ずしも忠実に守るべき道義性のなかつたのが当時の例で、弱肉強食、一々が必死を賭けた保身だから、同盟もその裏切りも慾得づくと命がけで、生き延びた者が勝者である。信玄の目当の敵は信長で家康ではなかつたから、負けるときまつた戦争を敢て戦ふ必要はなかつたのだが、家康たゞ一人群臣をしりぞけて主戦論を主張、断行した。

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小出楢重

【楢重雑筆】

 ところが初めて私は毎日池をのぞいて見たり草原を探って見たりして驚いた、先ず例えば一尺平方の地面の上に、これはまた無数の生物がうようよしているのであった。ちょっとした水たまりの中に、何か知ら不思議な奴が充満しているといっていい位い右往左往しているのだ、目に見える奴だけがこれだから、もし細菌といった奴なら、それこそ到底地球上の人類ほどもいるかも知れない、それがおのおの猛烈な恋愛をやったり、み合ったり殺し合っているのだからおそろしい、その弱肉強食殺合ころしあいが極く自然に、合理的に行われているのでますます気味の悪さを感じるのである。自然は決してのどかなものではなさそうである。

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久生十蘭

【魔都】

 以上の四人が、元日匇々一体何のためにこんなところで顔合せをしているかといえば、前回でも申し述べましたように皇帝が持っていられる例の「 帝王ラジャー」という大金剛石、これを同じく住人の一人、有名な珊瑚王の伜山木元吉が売却方を皇帝に依頼され、印東を仲介にして犬居に売込み、黙っていても五十万円とはね上るコムミッションを頂戴して、二進にっち三進さっち も行かぬ借金の穴埋めをしようと血眼になって走り廻っている。どうせ、弱肉強食の世界、これを聞いて見逃して置くわけはない。あの青二才の過ぎた仕事だ、そいつをこっちへふん奪くってしまえ、で、印東をこっちの味方につけて山木の水の手を切って置き、山木の借用証書を買い集めて強制執行をかけ、いきなり実力接収と行こうという魂胆。

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賀川豊彦

【空中征服】

「蛙の世界でも、そうじゃが人間の子の間でもそうだろう。子を生むだけ生んで、それを育てる段になると、弱肉強食でえらいもの勝だろう。人間の子はえらい悪くなったという評判がここにも立っているが、おまえもその生存競争に負けた落ち武者の一人かのう? 人間の子の世の中は実に浅ましいことじゃなア。とくに日本人は性悪じゃそうな! 日本には少し人間が多過ぎやせんのか。屑ばかりの人間がなア! 困ったこっちゃなア! おまえもその下敷になって、殺されかかってここまで落ちのびて来たのじゃろうなア」

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宮本百合子

【便乗の図絵】

共産主義者そのほか、人類社会が発展し幸福になるためには、社会生産の機構が資本の解放とともにもっと万人の幸福のためになるようにくみかえられなければならないと考える人々は、労働者にしろ学者にしろ、資本の独占の形や、それを守るための弱肉強食に賛成しない。それらの人々はあいかわらず、侵略戦争に反対しているし、戦争挑発流行の本体をすべての人にわからせて、しんから人民の生活安定に必要な平和確保の実行が可能であることをわかりあおうとしている。

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牧逸馬

【運命のSOS】

 押し退けられ、※[#「てへん+発」、237-上14]ね飛ばされる婦人客、踏み殺される子供、積み過ぎてあわやと言う間に底を見せる短艇、最も露骨な弱肉強食の場面――この地獄の現出を避けて、船長は遂に真相を発表せずに最後の瞬間を待ったのだと、いわれているが、何うも怪しい。往生際の悪い西洋人だから、地獄振りの限りを尽したといった方が正直でもあり、自然である。

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柳田國男

【野草雑記・野鳥雑記 野鳥雑記】

 その上に被害者が、もし見にくい池の蛙などであったら、はたしてこの弱肉強食の現実に当面して、 く同一程度の義憤を起し得たかどうかも、また大なる疑問である。
 なるほど池の蛙は惜しげもなく沢山たくさんに、毎年の春は生れて来る。しかし金魚の出産率は実はこれよりもはるかに大きいので、にしんかつおなどと同じように、全く最初から食われるため死ぬためだけに、生命を開始するといってもよい者が大部分なのである。

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福田英子

【妾の半生涯】

我が国の危急を如何いかんせんと、益※(二の字点、1-2-22)政府の改良に熱心したる所以ゆえんなり。のう※(二の字点、1-2-22)つらつら考うるに、今や外交日に開け、おもて相親睦あいしんぼくするの状態なりといえども、腹中ふくちゅう※(二の字点、1-2-22) おのおの針をたくわえ、優勝劣敗、弱肉強食、日々に 鷙強しきょうの欲をたくましうし、しきりに東洋を蚕食さんしょくするのちょうあり、しかして、うち我が国外交の状態につき、近くのうの感ずる処をぐれば、曩日さきに朝鮮変乱よりして、日清の関係となり、その談判は果して、儂ら人民を満足せしむる結果を得しや。

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吉川英治

【新書太閤記 第三分冊】

 配下二千余の野武士は、ほとんど無学の反骨が多いのだ。精悍せいかん豪猛ごうもうな野人ぞろいなのだ。それを統馭とうぎょできなければ蜂須賀一族は支えてゆけない。猛獣の仲間では、弱肉強食は当然の理だからである。
 で小六は、自分と似ない子を見るたび、
(これでは行く末のほども)
 と、亀一の柔順な天性や好学な才を、むしろ嘆いて、暇さえあれば庭へ立たせ、自身の猛気や勇壮の血を、武芸によってそそぎ込もうとするのだった。

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Last updated : 2024/06/28