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縦横自在
じゅうおうじざい
 ⇒ 自由自在 ⇒ 縦横自在
作家
作品

正岡子規

【病牀六尺】

『公長略画』なる書あり。わずかに一草一木を画きしかも出来得るだけ筆画を省略す。略画中の略画なり。而してこのうちいくばくの趣味あり、いくばくの趣向あり。蘆雪ろせつらの筆縦横自在じゅうおうじざい なれどもかえってこの趣致を存せざるが如し。あるいは余の性簡単を好み天然を好むに偏するに るか。

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二葉亭四迷

【浮雲】

昨日きのう文三にいじめられた事を、おまけにおまけを附着つけてベチャクチャと饒舌しゃべり出しては止度とめどなく、滔々蕩々とうとうとうとうとして勢い百川ひゃくせんの一時に決した如くで、言損じがなければたるみもなく、多年の揣摩ずいま一時の宏弁こうべん、自然に備わる抑揚頓挫とんざあるいは開き或はじて縦横自在に言廻わせば、 さぎからすに成らずには置かぬ。

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石川啄木

【漂泊】

『船員は、君、みんな男許りな様だが、あらどう したもんだろう。』と仰向の男が起き上る。
 胡坐の男は沖の汽船から目を離して、躯を少し捻った。『…………そうさね。海上の生活には女なんか要らんじゃないか。海という大きい恋人の はらの上を、縦横自在け廻るんだからね。』

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久米正雄

【良友悪友】

今日はね。先刻 さっき から三人で落合って、 芸者キモノ抜きで酒を み始めたんだが、S君が僕に人間ってものは面白いものだって云い出してね、この見れば見る程面白い人間ってものを、縦横自在に楽しまうじゃないか。それだのに 何故なぜ世間の奴等は、ビク/\して此の人間の面白さを あじあ わないんだ。

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正岡容

【随筆 寄席囃子】

 続いて場内を真っ暗に、辮髪べんぱつの支那人姿となって現れ、その辮髪の先へ湯呑み茶碗の中へ蝋燭ろうそくを立てて灯を点したのを結びつけると、四丁目の合方おもしろく、縦横自在に振り回した。幻燈の 花輪車かりんしゃのよう辮髪の先の灯は、百千ももちに、千々ちぢに、躍って、おどって、果てしなかった。まさにまさしくこれだけは逸品だった。

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北大路魯山人

【良寛様の書】

 しかも良寛様の書は、例えそれが晩年作にしても、さまざまな書技のさばきがあり、ときどき心境の異変的開きがあって縦横自在の変化を見せて、かりそめにも一つや二つのよりどころに膠着するところがない。

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佐藤紅緑

【ああ玉杯に花うけて】

「勝てないかなあ」とかれは善兵衛にいった。
「勝てそうもないなあ」と善兵衛がいった。すべての応援者も力が抜けてしまった。実際柳の成績はおどろくべきものであった、かれの球は速力において五大洲におとっているが、その縦横自在な正奇の球は回が重なるにしたがって熱気をおびてきた、どうかしてかれが敵に打たれこむときには小原がマスクをぬいでダイヤモンドへ進んでくる、そうしてこういう。

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宮本百合子

【獄中への手紙 一九三五年(昭和十年)】

 重治は現実につめよっているが丸彫りにしていないと云ったが、そういうところか。
 いずれにしろ、前へ、前へで、今は、次の小説のことと、冬を越す蕾と題する随筆集出版の仕度中です。
 詩の事につき、又他の書くものにつきゆうべも話したが、私たちはまだ縦横自在ではないことを痛感し、もっとオク面なくなって、しかも正当な焦点をもつようになりたいと頻りに話したことです。小説を書くについても新しい現実の内容が豊富複雑錯雑して居て、直さんは小説勉強というものを『文学評論』にのせて、現実をいかにつかまえんかと苦慮して居ます。

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原勝郎

【東山時代における一縉紳の生活】

されば同日の朝に『伊勢物語』の講釈を聞きて、その晩になると『源氏』の講義を聞くというようなこともないではなかった。その聴聞衆としては、中御門黄門、滋前相公、双蘭、藤、武衛、上乗院、および肖柏等であったと見える。『伊勢物語』は同じく古典であっても、『源氏』などとは異なり、肩のあまり凝らぬ物語であるから宗祇も腕によりをかけ、『源氏』の場合とは違った手加減で語巧みに縦横自在の講釈をなしたらしい。したがって『源氏』の講釈にない面白味もあったらしく、実隆はその日記に、「言談の趣き、もっとも神妙神妙」と記している。

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Last updated : 2024/06/28