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壮大華麗
そうだいかれい
作家
作品

坂口安吾

【 道鏡 】
 然し、その巨大なる費用のために、諸国は疲弊のどん底に落ち、庶民は貧窮に苦しんでゐた。朝廷は怨嗟の的となり、重税をのがれるための浮浪逃亡が急速に各地に起り、おのづから荘園はふとり、国有地は衰へ、平安朝の貴族の専権、ひいては武家の勃興、朝家の没落の種はかうしてまかれてゐたのである。
 然し、二人の宿命の子は、そのやうなことは振向きもしない。たゞ常に天下第一の壮大華麗な遊びだけがあるだけだつた。それは二人の意志のみではない。六朝をかけた家名の虫、女主人たちの意志だつた。沈静なる女支配人たちの綿密な心をこめた霊気の精でもあつたのである。
 そして、宿命の二人に子供が生れた。娘であつた。持統天皇がその強烈沈静な思ひをこめてから六代、最後の精気が凝つてゐた。それが孝謙天皇であつた。

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野上豊一郎

【 七重文化の都市 】

 その結果として、カイロは今見るが如きイズラムの町と化し、円屋根キューポラ尖塔ミナレットを持った輪奐の美を誇るモスクが簇生しているが、例えば、モハメド・アリのモスクにしても、スルタン・ハサンのモスクにしても、エル・アザールのモスクにしても、イブン・トゥルンのモスクにしても、エル・リファイエのモスク(俗称戴冠コロネイションモスク)にしても、それだけの様式として見ればいずれも相当に高く評価されるべきものではあるけれども、諸君がそれを見た後で、若しニルの上流地方へ行き、ルクソル、カルナク、エドフ、デンデラなどの古代王朝時代の壮大華麗の殿堂の遺物を見たならば、それこそ日光から奈良へ行ったような感じがするに相違ない。古代王朝の遺物は、大きさに於いても、美しさに於いても、殊に芸術的品格の高さに於いては、殆んど比較を絶するものであるから。

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小島烏水

【 高山の雪 】

 以上は雪そのものの美と作用を略説したのであるが、雪に依って保護される生物に、雷鳥や高山植物などがある。就中なかんずく高山植物の美麗は熱帯の壮大華麗なる花をしのぐのであるが、高山植物の美観は他日題を改めて説くつもりである。
 山岳を建築とすれば、高山植物は、この建築内部の装飾絵画のようなもので、その美術家は雪である。山という建築が、高く大きく発達するほど、雪という美術家が多くなり、高山植物という補助の絵画が立派に製作される。高山の雪は、あながち死を連想するほどに、冷酷、寂寞、荒廃ではないのである。

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岡倉覚三
村岡博訳

【 茶の本 】

 茶室はただに西洋のいずれの建築物とも異なるのみならず、日本そのものの古代建築とも著しい対照をなしている。わが国古代の立派な建築物は宗教に関係あるものもないものも、その大きさだけから言っても侮りがたいものであった。数世紀の間不幸な火災を免れて来たわずかの建築物は、今なおその装飾の壮大華麗によって、人に 畏敬いけいの念をおこさせる力がある。直径二尺から三尺、高さ三十尺から四十尺の巨柱は、複雑な腕木うでぎの網状細工によって、斜めの瓦屋根かわらやねの重みにうなっている巨大なはりをささえていた。

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Last updated : 2024/06/28