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粟散辺土
ぞくさんへんど
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作家
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作品
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芥川龍之介
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【
俊寛
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「女房も死ぬ。若も死ぬ。姫には一生会えぬかも知れぬ。屋形や山荘もおれの物ではない。おれは独り離れ島に老の来るのを待っている。――これがおれの今のさまじゃ。が、この苦艱を受けているのは、何もおれ一人に限った事ではない。おれ一人衆苦の大海に、没在していると考えるのは、仏弟子にも似合わぬ増長慢じゃ。『増長驕慢、尚非世俗白衣所宜。』艱難の多いのに誇る心も、やはり邪業には違いあるまい。その心さえ除いてしまえば、この
粟散辺土の中にも、おれほどの苦を受けているものは、恒河沙の数より多いかも知れぬ。いや、人界に生れ出たものは、たといこの島に流されずとも、皆おれと同じように、孤独の歎を洩らしているのじゃ。
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正岡子規
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【
犬
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長い/\話をつゞめていふと、昔天竺に閼迦衛奴国といふ国があつて、そこの王を和奴々々王といふた、此王も此国の民も非常に犬を愛する風があつたが、其国に一人の男があつて王の愛犬を殺すといふ騒ぎが起つた。其罪でもつて此者は死刑に処せられたばかりで無く、次の世には粟散辺土の日本といふ嶋の信州といふ寒い国の犬と生れ変つた。ところが信州は山国で肴などいふ者は無いので、此犬は姨捨山へ往て、山に捨てられたのを喰ふて生きて居るといふやうな浅ましい境涯であつた。然るに八十八人目の姨を喰ふてしまふた時、ふと夕方の一番星の光を見て悟る所があつて、犬の分際で人間を喰ふといふのは罪の深い事だと気が付いた。
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Last updated : 2024/06/28