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天衣無縫
てんいむほう |
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作家
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作品
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太宰治 |
【 右大臣実朝 】 私の案ずるところでは、当将軍家とお逢ひになつて、その時お二人の間に、私たちには覬覦を許さぬ何か尊い火花のやうなものが発して、それがあの「方丈記」とかいふものをお書きにならうと思ひ立つた端緒になつたのではあるまいか、ひよつとしたら、さすがの御老人も、天衣無縫の将軍家に、その急所弱所を見破られて謂はば奮起一番、筆を洗つてその名文をお書きはじめになつたのではあるまいか、などと、俗な身贔屓すぎてお笑ひなさるかも知れませんが私などには、どうも、そのやうな気がしてなりませぬのでございます。 |
太宰治 |
【 パンドラの匣 】 「してみると、カクランの句かな?」落ちついたものである。淡泊と言おうか、軽快と言おうか、形容の言葉に窮するくらいだ。「カクランの句にしては、うますぎるよ。きゃつ、盗みやがったな。」すでにここに「慰安放送? あたしの句も一緒に出してよ。ほら、いつか、あなたに教えてあげたでしょう? 乱れ咲く乙女心の、という句。」 |
岸田國士 |
【 戦争と文化 ――力としての文化 第三話 】 そして特にわれわれが知るべきことは、さういふ美しい生活の形式と内容が、誰の考案といふこともなく、長い年月のうちに、時代々々の趣きを加へ、築きあげ、鍛へ、磨かれて来て、はじめて完成の域に達したといふ事実です。これは、さういふ生活を土台として生れた芸術についても云へることで、日本の美は、一人の天才がこれを創り出したといふやうなものは少く、殆どすべては、歴史そのものが、ある時代といふ「天才」の力を得て、無名の傑作、天衣無縫の名品として、この国に与へたもののうちに宿つてゐるのです。 |
坂口安吾 |
【 黒田如水 】 如水は律儀であるけれども、天衣無縫の律儀でなかつた。律儀といふ天然の砦がなければ支へることの不可能な身に余る野望の化け者だ。彼も亦一個の英雄であり、すぐれた策師であるけれども、不相応な野望ほど偉くないのが悲劇であり、それゆゑ滑稽笑止である。秀吉は如水の肚を怖れたが、同時に彼を軽蔑した。 |
三好十郎 |
【 恐怖の季節 】 なぜかというと、論理と構築と進化とが、多少ずつでも彼のうちに生きてくれば、「すべての事は、それぞれそのままの意義と姿において、ほむべきかな」と言ったふうの――敵も味方もいっしょくたにして肯定してしまうところの大調和論みたいなものは、成り立たなくなるであろうから。そして、そんなものが成り立ってほしくないからである。もちろん、そうなれば、彼の「天衣無縫」さは彼から失われるだろう。それは惜しい。一つの宝物を失うように惜しい。しかし、どうせわれわれは彼の「天衣無縫」の路について行けはしなかった。しかし、彼の「人道主義」には、ついて行きたかったのだ。これからも、ついて行きたい。それには、「天衣」を脱いでくれないとダメだ。「天衣」は美しいが、デタラメだからである。 |
夢野久作 |
【 少女地獄 】 さらに将軍家への直訴をもこのお方の御時にはじめてお許しに相成り、いちいちその訴へをあざやかにお裁きになつたといふほどの天稟の御英才を相州さまともあらうお方がわからぬなどといふ事はございませぬ。こんこんと諫言、などといふ噂を当の相州さまがお耳にしたら、驚き苦笑ひなさる事でせう。将軍家の天衣無縫に近い御人柄に対しては、あれほどの相州さまも何とも申し上げる余地がなかつたのではなからうかと私には思はれるのでございます。 |
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