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天下無双
てんかむそう
作家
作品

芥川龍之介

【きりしとほろ上人伝】

「なれどここに一つ、難儀なことがおぢやる。それがしは日頃山ずまひのみ致いて居れば、どの殿の旗下はたもとに立つて、合戦をつかまつらうやら、とんと分別を致さうやうもござない。就いては当今天下無双強者つはものと申すは、いづくの国の大将でござらうぞ。誰にもあれそれがしは、その殿の馬前にせ参じて、忠節をつくさうずる。」

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平野萬里

【晶子鑑賞】

雫する好文亭の萩の花清香閣の秋風の音

 大正八年頃の秋水戸に遊んだ時の作。今の公園、昔の水戸城内の建物の名を二つ並べただけのことだが、その並べ方が天下無双で、丁度遠州や雪舟が庭石を並べるようなものである。

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宮本百合子

【獄中への手紙 一九四二年(昭和十七年)】

 タオル寝巻をやっと出来上らしてもらって、さあ、これで嬉しいと床の上へひろげてたたもうとしたらどうでしょう、私が折角下前へくるようにと思って切った筈のつぎ足しが上前へ出てしまっています。あなたもこんなに風流なタオル寝巻は今迄一度だって召したことがないでしょうと思って我ながら唖然たりです。この手紙を書いてくれる人が私の床の横にちょこなんと坐って、昨日も長い間かかって天下無双の大つぎをあててくれ、私はその側にみえない眼に力を入れて「どう? 何とかなる? ありがとうね」とやっていて残りは今日にまわりましたが、

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萩原朔太郎

【名前の話】

その易者の言によると、僕の手相は極めて珍らしい手相であって、何十万に一人しか無いという、不出世の天下筋というのがあるそうである。それがもし完全に通っていたら、天下無双の天才人や英雄人の相であり幸運第一の出世人となるのだそうだが、不幸にして僕の場合は、極く僅かばかりの所で、その筋が不完全に切れてるのだそうである。

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直木三十五

【鍵屋の辻】

 張扇から叩きだすと、「伊賀の水月、三十六番斬り」荒木又右衛門源義村みなもとのよしむら――琢磨兵林たくまひょうりんによる、秀国、本当は保和、なのりだけでも一寸ちょっとこれ位ちがっているが――三池伝太光世みつよの一刀をもって「バタバタ」と旗本の附人共三十六人を斬って落すが、記録で行くとこの附人なる者がただの二人になってしまう。その上困った事にはこの天下無双の荒木又右衛門が 背後うしろから小者に棒で腰の所を撲られている。

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久生十蘭

【ノンシャラン道中記 乱視の奈翁 ――アルル牛角力の巻――】

恨みは深しメリヤスの股引ももひき、不具戴天の仇。お話申すも涙の種でがす。この父親といいますのは、近県六市は愚かなこと、アルサス、ルュクサンブウルのあたりまで鳴り響いた天下無双荒牛トオロオでがんした。一旦、円戯場アレエヌの砂に立ってちょいとくさみをするとヴィル・デ・ポオの小道に砂埃りが立つといわれたものでごぜやした。

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大町桂月

【層雲峡より大雪山へ】

塩谷温泉までの巌峰だけにても、天下の絶景なるが、これなお鬼神の門戸にして、温泉からが楼閣也。その小箱に至るまでの神秘的光景は、耶馬渓になく、昇仙峡になく、妙義山になく、金剛山になし。天下無双也。層雲峡を きわめたる者にして、始めて巌峰の奇を説くべき也。

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岡本綺堂

【魚妖】

かば焼もむかしは鰻の口より尾の方へ竹串を通して丸焼きにしたること、今のぼらこのしろなどの魚田楽の如くにしたるよし聞き及べり。大江戸にては早くより天下無双の美味となりしは、水土よろしきゆえに最上のうなぎ出来て、三大都会にすぐれたる調理人群居すれば、一天四海に比類あるべからず、われ六、七歳のころより好み食いて、八十歳までも無病なるはこの霊薬の効験にして、草根木皮のおよぶ所にあらず。

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中里介山

【大菩薩峠 弁信の巻】

「まあ驚くな、実は友様、こういうわけなんだ、ついこの隣地の富士見原というところへ、こんど天下無双の武芸者が乗込んだのだよ――そいつをひとつお前をつれて、見物に行こうと、津田君と二人で、もうちゃんと打合せをして、桟敷が取ってあるんだから、いやのおうのは言わせねえ」

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コナン・ドイル
三上於莵吉訳

【空家の冒険】

「以前は皇帝の印度いんど軍に居た方で、わが東方帝国の生んだ、名誉ある最大の名射手なのです。――ね、大佐、あなたの虎嚢は、依然として天下無双でしょう。ねきっとそうでしょう?」

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Last updated : 2024/06/28