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輾転反側
てんてんはんそく
作家
作品

田山花袋

【一兵卒】

 重い、けだるい脚が一種の圧迫を受けて疼痛とうつうを感じてきたのは、かれみずからにもよくわかった。ふくらはぎのところどころがずきずきと痛む。普通の疼痛ではなく、ちょうどこむらがかえった時のようである。
 自然と身体からだをもがかずにはいられなくなった。綿のように疲れ果てた身でも、この圧迫にはかなわない。
 無意識に輾転反側 てんてんはんそくした。

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北村透谷

【厭世詩家と女性】

此時、想世界の敗将気はゞみ心疲れて、何物をか得て満足を求めんとす、労力義務等は実世界の遊軍にして常に想世界をうかゞふ者、其他百般の事物彼に迫つて剣鎗相接爾せつじす、彼を援くる者、彼を満足せしむる者、果して何物とかなす、曰く恋愛なり、美人を天の一方に思求し、輾転反側する者、実に此際に起るなり。

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中里介山

【大菩薩峠 弁信の巻】

イヤなおばさんともあるべきものが、若い詩人のするようなうなり声で魂をうめらかすなんぞは、外聞にもよくないと思われるが、それにも拘らず、魂のうめきを、このイヤなおばさんの肉体がしきりに発散させているのです。といっても、イヤなおばさんの身体そのものは、それがために少しも輾転反側するわけではなく、以前と同様の安静と、無表情と、微動だもしない死そのものの中から起って来るのですから、特にこのおばさんが苦しがって、魂のうめきを立てているわけではないのです。

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宮本百合子

【作品の血脈】

 その歌集を貰った時分、私は青山に住んでいて、生活のうちに落付けず、輾転反側していた時代であった。歌集を読んで、どんなことを云ったか手紙をかいた。

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牧逸馬

【双面獣】

 此のロスリッジ青年は、何時になく妙に寝つかれなくて困っていた。寝台ベッド輾転反側して、眠りが来るようにしきりに祈りながら、一生懸命に眼をつぶっていると、そのうち、何処か高いところからでも墜落するように、急に眠り出したものとみえる。

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橘外男

【墓が呼んでいる】

 そんな話のうちに、夜もふけて、やがて人々は別れ去って、私も疲れたからだをやっと蒲団ふとんに横たえましたが、どんなに私が輾転反側てんてんはんそくしてその夜一晩、まんじりともせずに夜を明かしたかは、もう先生、貴方あなたにも想像していただけるであろうと思います。

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甲賀三郎

【支倉事件】

 当時の支倉の頭は針のように尖って、只いかにして罪を逃れんかと云う事に集中していた。元より愚物どころではない人並勝れて智恵の働く彼の事である。深夜人の寝静まった監房に輾転反側しながら、頭は益冴えかえり、種々画策する所があったに相違ない。

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Last updated : 2024/06/28